蒼井華和が手を出そうとした時。
一本の手が彼女の耳元を越えて、黒川振一を直接引っ張り上げた。
彼女は少し振り返った。
男の横顔が見えた。
そして低い声が聞こえた。
「早く上がれ、ここは俺に任せろ」
蒼井華和は考える暇もなく、急いで階段を上がった。
階段口に着いたとき、空気の中に朝比奈瑠璃のドアを叩く音が響いた。「華和、私はここよ!ここにいるわ!」
この数日間、朝比奈瑠璃は上階に閉じ込められていた。
一度も下に降りることはなかった。
蒼井華和は足を速め、三階に着いたが、そこには防犯ドアが設置されており、複数の鍵がかけられていた。
「司緒、慌てないで。すぐに連れて帰るから」
「華和!」
蒼井華和の名前以外、朝比奈瑠璃は何も言えなかった。
涙が顔一面に流れていた。
鍵がないとドアは開けられない。蒼井華和は眉をひそめ、髪から黒いヘアピンを一本取り出した。