個室のドアを開けると、長い廊下が続いており、その廊下を進むと、屋上庭園に出る。
庭園は広々としている。
初夏の季節で、そよ風が心地よく、庭園には色とりどりの花が満開に咲いていた。
蒼井陽翔が屋上庭園に足を踏み入れた瞬間、すらりとした女性の姿が目に入った。
手すりに寄りかかる女性の姿は、その美しい腰のラインを一層際立たせ、手に持った煙草の煙が、その絶世の美貌を幻想的に包み込んでいた。
それは。
柚木昭乃だった。
蒼井陽翔の心臓が早鐘を打ち始めた。
ドキドキと。
自分の顔に触れ、今日マスクをしていることに感謝した。
そうでなければ、顔の傷跡をどう説明すればいいのか。
「昭...」
彼が口を開いた途端、柚木昭乃が振り返り、笑いながら言った。「あら、蒼井トップスター!なんて偶然でしょう!」
「ええ、本当に偶然ですね。」
柚木昭乃を前にして、蒼井陽翔は彼女の目を見ることさえできなかった。
柚木昭乃が一歩一歩近づいてきて、「蒼井トップスター、何か後ろめたいことでもあるの?」
「い、いいえ。」
「なら、どうして私の目を見られないの?」柚木昭乃は笑いながら尋ねた。
蒼井陽翔は顔を上げて柚木昭乃を見たが、彼女の目と合った瞬間、反射的に下を向いてしまった。
柚木昭乃は軽く笑った。
「私のメイクが濃すぎるのかしら?」柚木昭乃は続けた。「以前、あなたのインタビューを見たわ。蒼井トップスター、濃いメイクの女性は苦手なんでしょう?」
それは柚木昭乃と出会う前のインタビューだった。
その言葉を聞いて、蒼井陽翔はすぐに説明した。「昭乃さん、誤解です。私は決して濃いメイクの女性が苦手なわけではありません!」
「じゃあ」柚木昭乃は煙を吐き出しながら、蒼井陽翔をじっと見つめた。「蒼井トップスターは私のことが好きだと解釈していいのかしら?」
その言葉に、蒼井陽翔の顔は一瞬にして真っ赤になった。
柚木昭乃にどう返事をしようか考えていた時。
「あはは...」
柚木昭乃は笑い出した。「蒼井トップスター、緊張しないで。冗談よ。」
そう言って、柚木昭乃は腕時計を確認した。「約束の人がいるので、これで失礼します。」
言い終わると、柚木昭乃は背を向けて立ち去った。
柚木昭乃の後ろ姿を見つめながら、蒼井陽翔の心は複雑な思いで一杯だった。