「なに?」
榊原静華と周防誠一は呆然としていた。
二人とも、原田真雪が蒼井華和には関係ないと言うとは思ってもみなかった。
これでは蒼井華和から金を騙し取ることができない!
この老いぼれ!
得すべき時に得せず、得してはいけない時に必死で得しようとする!
監視カメラは壊れていて、目撃者もいない。原田真雪が蒼井華和に突き飛ばされたと言い張れば、蒼井華和は必ず賠償金を払わなければならないはずだったのに!
「お礼は結構です。お年寄りが無事で何よりです」蒼井華和は続けて言った。「警察官の方、私は先に失礼させていただきます。もし協力が必要な際は、いつでもご連絡ください」
「はい、わかりました」
榊原静華と周防誠一は蒼井華和の去っていく後ろ姿を見て、顔が歪むほど腹を立てていた。
数十万円がこうして消えてしまった!
誰だって悔しいだろう?
しかもこんなにいい機会だったのに!
蒼井華和の雰囲気からして、この若い女性はきっと金持ちに違いない。
......
病院を出て、蒼井華和は携帯を開くと、見知らぬメッセージを見つけた。
写真が添付されていた。
【あなたの犬のモチ子はまだ同じ場所で待っています】
蒼井華和はすぐにタクシーを拾い、広場へ向かった。
30分後、広場に到着した。
この時間、広場にはほとんど人がいなかった。
街灯の下で、男性がそこに立ち、足元には大型犬が横たわっていた。
その時、大型犬は何かを感じ取ったように頭を上げて蒼井華和の方を見ると、突然彼女の方へ駆け出した。
あっという間のことで、春野宴真は全く準備ができていなかった。
ドン。
モチ子に引っ張られて地面に倒れ、うつ伏せに転んでしまった。
「モチ子!止まりなさい!」
モチ子は急ブレーキをかけたものの、春野宴真はすでに転んでいた。
蒼井華和はすぐに小走りで近づき、春野宴真を助け起こした。「春野知事、大丈夫ですか?」
「大丈夫です」春野宴真は地面から立ち上がり、落ち着いて服についた埃を払った。「君の犬は個性的だね。私の家に連れて行こうと思ったんだけど、どう引っ張っても動かなかった」
蒼井華和は説明した。「以前、野良犬だった経験があるので、警戒心が強いんです」
「なるほど!」春野宴真は頷き、さらに尋ねた。「問題は解決したの?」