黒い影が一瞬固まった。突然誰かが来るとは思わなかったようだ。
そして足を止めた。
玲姉の方を振り向いた。
「は、はい。私です」
来た人の顔を見て、玲姉はまだ警戒を解かず、眉をしかめた。「榊原芳乃、ここで何をしているの?」
その通りだ。
来た人は蒼井紫苑だった。
ここは事件現場だ。もし蒼井紫苑が犯人なら、ここに来た目的はただ一つ。
証拠隠滅だ。
突然現れた玲姉を見ても、蒼井紫苑は動揺しなかった。
これは彼女の予想の範囲内だったからだ。
ここは今、第一事件現場で、警察がいつでも証拠収集に来る可能性がある。
しばらくして。
蒼井紫苑は玲姉を見上げ、目を赤くして言った。「朝倉警部、父のために路銭を焼きに来たんです。お年寄りから聞いたんですが、人が死んだ後、路銭を受け取れないと黄泉の道にたどり着けず、生まれ変われないそうで……」