「結城様?夏美に会いに来てくださったのですね。どうぞお入りください」林富岡は突然結城様を見かけ、夏川清美の言葉を無視して、熱心に招待した。
自分がこの人の義父になるはずだということを完全に忘れていた。
林富岡は気づかなかったが、鈴木の母娘ははっきりと聞いていた。あのデブ野郎がビデオを持っているって言ったけど、そんなはずがない!でも、もしないなら、なぜ人前でそんなことが言えるのか?
二人が不安に思っている間に、結城陽祐はすでに病室に入っていた。
林夏美の視線は瞬時に気品のある美しい男性に引き寄せられた。「結城様、いらっしゃいました」
そう言いながら無理して起き上がり、さっきまで蒼白だった顔が一気に紅潮し、可愛らしい顔には恋する乙女の恥じらいが満ちていた。
結城陽祐は熱心な視線を送る林夏美に一瞥も与えず、代わりに隅に縮こまっている田中くんと氷川くんに目を向けた。「警察官か?」
田中くんと氷川くんは即座に姿勢を正した。署内でこの結城様の噂は数多く耳にしていた。世間ではこの結城家の跡取りについて、紳士的で礼儀正しく、容姿は比類なく美しいが、病弱な人だと評価されていた。しかし、上層部から聞いた話では、この人は確かに病弱だが、その残虐さも本物だという。
結城家の主要事業が京都に完全に移転する前、この結城様は自ら叔父一人と甥二人を刑務所送りにした。断固とした決断力で血縁関係も顧みず、密かに傷つけたり不具にしたりした件は別として、当時彼はまだ十七歳だった。
病弱者の名を持ちながら、巨大な商業帝国を今日まで支えてきた男が紳士的で優雅?冗談じゃない。
二人の若い警察官は目の前の結城陽祐を見つめながら、ふと古い言葉を思い出した。最も消し難きは美人の恩。
「ああ、誤解です、誤解。お二人、用事がなければお見送りしましょう。清美、義兄にお茶を入れてきなさい。夏美は結城様とお話ししていなさい」前回、林家は結城陽祐の前で恥をかいたばかりで、今回また警察沙汰となっては、結城家との婚姻がうまくいくかどうか保証できないと林富岡は考えた。
結局のところ、誰が正しくて誰が間違っているかは重要ではない。
林富岡はやはり商人なのだ。
田中くんと氷川くんはまだ結城陽祐の威圧感から抜け出せないうちに追い出されそうになり、やや朦朧とした状態で外に向かった。