夏川清美が赤ちゃんを寝かしつけたのは、それから二時間後のことだった。
藤堂さんと一緒に産後の食事をとるのは不自然ではなかったが、こっそり授乳するのはよくないと思い、夏川清美はいつか藤堂さんに話そうと考えていた。
数日一緒に過ごすうちに、藤堂さんはとても共感力のある信頼できる人だと分かった。
もう一人の産後ヘルパーの山田麗は、あまり育児室に来ないし、子供にも関心がないので、なんとかなりそうだった。
食事を終えると、夏川清美はメールを受け取った。
藤原先生が依頼を引き受けてくれたので、雲おばさんの件は全て任せることにし、自分は関与しないことにした。
今日のような状況は二度と起こしたくなかった。
お金を受け取る前なら好きにできたが、結城家から三百万円のヘルパー料を受け取った以上、誠心誠意尽くさなければならない。
何より、夏川清美自身が赤ちゃんをあんなに泣かせたくなかった。
メールの返信を終えると、林富岡からのメッセージを開いて、さっと目を通してから脇に置いた。
夕方、健二が間取り図を何枚か持ってきた。
2LDKで、価格は二百万から三百万円の間だった。
夏川清美は二百八十万円の物件を選んだ。六十九平米で、内装済み。市街地からは遠いが、成熟した住宅地で地下鉄駅も近く、生活に便利で雲おばさんの暮らしに適していた。
最も重要なのは、自分が夏川先生だった頃のマンションと同じ建物で、誠愛病院にも近いことだった。
不動産担当者に連絡し、まず病院に行って雲おばさんのサインをもらうように頼み、最後に「サインはしてもらえますから、詳細は伝えなくて結構です」と付け加えた。
このマンションは雲おばさんの名義で購入するつもりだった。
全てを済ませると、夏川清美は深いため息をつき、傍らの赤ちゃんを見下ろして「久美ちゃん、ママと雲おばあちゃんは一時的にお家が見つかったわ」と言った。
以前のマンションに住みたいとは思うものの、自分が亡くなった後、夏目家の人々が自分の財産を処理しに来たかどうかは分からなかった。
ここに来てまだ十数日しか経っていないのに、過去はどんどん遠ざかっていく。
まるで天才医師としての短い人生は、大きな夢を見ていただけのようだった。
目覚めて林夏美としての波乱万丈な日々に直面するのが、本来の現実の生活なのかもしれない。