第63章 運命に翻弄される太っちょ

夏川清美はバーを出て、やっと耳が静かになった。

医者をしていた頃は、休暇の時にたまにバーで気晴らしをしていた。ハードな仕事の後には狂ったように発散する必要があった。しかし、前世の性格は孤独で、バーはおろか、大型ショッピングモールにもほとんど行ったことがなかった。

この耳にはバーの喧騒が耐えられなかった。

石畳の通りを出て、夏川清美は時計を見ると1時間半が経っていた。木村久美がきっと騒ぎ出すだろうと心配になり、急いでタクシーを止めようとした。

しかし、その時背中に誰かがぶつかってきた。不快に思って振り返ると、荒い大きな手が彼女の口と鼻を覆った。

夏川清美は今の体型では非常に動きづらく、反撃しようとしたが、エーテルの匂いですでに意識を失っていた。

意識が朦朧とする中、夏川清美は思わず呪った。神様が彼女をデブの体に転生させたのはまだいいとして、なぜデブにこんな波乱万丈な運命を与えるのか？

常識的に考えれば、波乱万丈な運命は美人のものではないのか？せめて清楚な美人でもいいじゃないか！

デブを平凡に生きさせてくれればいいのに。

夏川清美が目を覚ますと、あるホテルのスイートルームにいた。周りを見回すと、円形のベッド、紫のカーテン、とても趣味の悪い部屋だった。

彼女が何とか起き上がると、バスルームからシャワーの音が聞こえた。

眉をひそめた。最近はデブもこんなにもてるのか？

夏川清美は呆れ半分で笑いながら、手首の太い縄をどうやって解くか考えていると、バスルームのドアが開き、バスタオル一枚の大柄な男が出てきた。

槙島秀夫以外の何者でもなかった。

「目が覚めたか？」槙島秀夫は座っている夏川清美を見て、さも当然のように尋ねた。まるで夏川清美は彼に連れ去られた被害者ではなく、必死に彼のベッドに上がろうとする後輩のように。

夏川清美は「……」これは何の展開？

「心配するな、林叔父さんには今夜お前が俺と一緒にいると伝えてある」槙島秀夫は夏川清美の困惑した表情を見て、親切に説明した。

それは少し施しのような味わいがあった。

夏川清美は呆れて笑った。「人の話が聞けないの？」彼女はバーで既に事情を説明したと思っていた。