第70章 私は謝らない

夏川清美は黙って車に座っていた。

槙島家は林家から遠くないが、場所は林家ほど恵まれていなかった。

車を降りると、夏川清美は大きめのキャンバスバッグを背負って林富岡の後ろについて行った。

林富岡は200キロを超える娘を見つめた。以前、夏川清美が太った理由を説明した時は少し感動したが、最近の出来事で、その感動はすっかり消え去っていた。

この巨体の娘を見ていると、林富岡はただ目障りに感じるだけだった。

林家は信州市でそれなりの名声があったのに、夏川清美は名家の令嬢になるどころか、林家のより良い地位を得るどころか、笑い者になってしまった。

この娘を連れて歩く時の周りの人々の視線を思うと、林富岡は夏川清美にますます嫌気が差した。

もし槙島家と縁組みができれば、この娘も林家に少しは貢献したことになるだろう。

槙島家は林家には及ばないが、成り上がり者の出身で、他に取り柄はないが金だけは豊富だった。

林家は今まさに資金を必要としていた。

夏川清美は林富岡の目に宿る嫌悪感を感じ取り、心の中で冷笑した。彼女は林家と槙島家のこの結婚話が一体どうなるのか見てみたかった。

「バッグの中に何を入れているんだ。下ろすこともできないのか。そんなにごわごわさせて、恥ずかしくないのか」林富岡は夏川清美のゆっくりとした様子を見て、振り返って低い声で叱った。

「すぐにわかりますよ」夏川清美は口角に笑みを浮かべ、林富岡の言葉を気にする様子はなかった。

そのとき槙島家の方々が出迎えに来て、林富岡は表情を取り繕い、笑顔で応対した。傍らの運転手は急いで贈り物を槙島家の執事に渡した。

槙島秀夫は意味深な目で夏川清美を見た。

あの日目覚めた時の光景を思い出し、このデブ野郎を八つ裂きにしてやりたかったが、夏川清美は結城邸に隠れていて、会うことすらできなかった。

しかし、このデブ野郎が自ら虐めてもらいに来たようなものだ。

夏川清美は槙島秀夫の視線を感じ、顔を上げて相手に微笑みかけた。黒く輝く桃の花のような瞳は三日月のように細まり、清らかで澄んでいて、無邪気そのものだった。

槙島秀夫は一瞬驚いたが、すぐに林富岡と世間話を始めた。

一行は槙島家に入った。