第81章 （特典付き）夏川清美の初恋の人

彼女は死んだ。

彼は相変わらずだった。

ごく普通の白衣を、彼は無理やり着こなして清らかで超然とした雰囲気を醸し出していた。結城陽祐の妖艶な貴族的な雰囲気とは異なるが、彼独特の安心感があった。

彼女の先輩。

夏川清美の突然の死後、最大の心残りとなった。

彼女は結婚を嫌い、愛を信じなかったが、唯一加藤迅だけは信じていた。

残念ながら、彼女のその曖昧な恋心を告白する前に、三振アウトとなってしまった。

そして彼女を三振させたのは加藤迅ではなく、死神だった。

どうして納得できようか？

前回、夏川清美が加藤迅の後ろ姿を見ただけでも自制できたのに、今、彼と目が合うと、彼女の心臓は制御不能なほど加速した。

これは彼女が死んでから、初めての加藤迅との正式な対面だった。

夏川清美は今の気持ちを言い表せなかった。まるで夢のようでありながら、越えられない深い溝のように現実的だった。

そう、越えられない。

「林夏美、正陽様の言葉が聞こえないの？」

夏川清美が考え込んでいる時、林明里は我慢できずに低い声で怒鳴った。

夏川清美は我に返り、加藤迅の眉間のしわ、結城陽祐の感情のない琥珀色の瞳、そして明らかに怒っている林明里を見た。

一瞬茫然として、「正陽様は何とおっしゃったんですか？」

健二は密かに正陽様を見て、周りの気温が急に下がったのを感じ、親切に夏川清美に注意した。「清美さん、正陽様は赤ちゃんを林さんに抱かせてあげるようにとおっしゃいました。」

「ああ。」夏川清美は結城陽祐が同意するとは思っていなかったが、この時彼女の心は加藤迅のことで一杯で、上の空で「ああ」と言って、眠っている木村久美を林明里に渡した。

白昼堂々と、しかも結城陽祐の前で、林明里が赤ちゃんに何かするはずがないと夏川清美は信じていた。

それに将来、林明里が結城家に嫁ぐための最大の切り札は木村久美なのだから。

林明里は夏川清美がまだ彼女を困らせるだろうと思っていたが、まさか本当に赤ちゃんを彼女の腕に渡すとは思わず、一瞬手足が硬直して、動くことさえできなかった。