槙島家のリビングルームの空気が10秒ほど凍りついた。
最後には槙島秀夫が夏川清美の手からプロジェクターを奪おうとした。「何をするんだ!」
その声は裏返っていて、怒りの程が伺えた。
「誤解だって言ったじゃない?」夏川清美は先ほどの強気な態度を一変させ、か弱く槙島秀夫を見つめた。ようやく婚約者らしい姿を見せた。
しかし槙島秀夫は夏川清美の黒く輝く瞳の奥に挑発的な笑みを見つけ、その場で拳を握りしめ、手を出そうとした。
「下がれ」槙島お父さんも息子のビデオから我に返り、冷たく一喝すると、急いで林富岡に謝罪した。「ご親戚様、秀夫が分別がなくて申し訳ありません。ですが、今日以降、秀夫があの女性と関わることは二度とないと、あなたと夏川清美に約束します。」
林富岡も表情は良くなかった。それは槙島秀夫が嘘をつき、自分の娘を欺いたからではなく、夏川清美がまた自分の面子を潰したことに腹を立てていたからだ。
まさか槙島家でこんなものを流すなんて。
「うちの清美も悪い」林富岡は夏川清美を厳しく睨みつけた。「早く片付けなさい」
壁に映し出された映像はまだ消えておらず、時折男女の恥ずかしい声が漏れ出ていた。
夏川清美は眉を上げ、ゆっくりとプロジェクターの電源を切り、バッグにしまってから、リビングにいる人々を見渡した。「私は悪くありません。この結婚も取り消します」
そう言い残すと、リビングの人々のことなど気にせず、悠然と立ち去った。
体格が大きすぎなければ、本当に優雅な退場だったかもしれない。
林富岡は怒りで顔が青ざめたが、それでも槙島家の両親に謝罪せざるを得なかった。
リビングで息子のビデオを見てしまった槙島家の両親は表情が険しかったが、この件については槙島秀夫が筋違いなことをしたと分かっていたので、しぶしぶ林富岡の対応をした。
しかし林富岡が帰るや否や、槙島お母さんは躊躇なくコップを床に叩きつけた。「林家はどうしてこんな恥知らずを育てたのよ?豚みたいに太っているだけでも十分なのに、自分のことが分かってないなんて。うちの秀夫がちょっとネットアイドルと寝ただけで、何が悪いの?まだ婚約も済んでないのに、調子に乗りだしたってことね!」