夏川清美は老人をちらりと見て、健二の視線を無視し、身をかがめて結城陽祐を押して外に向かった。
健二は信じられない様子で彼女を見つめ、最後には歯を食いしばって、背の高い体を折り曲げ、夏川清美のように病床を押し出した。
「なんと罪深いことか。みんな可哀想な人たちだ。若造どもにこんな扱いを受けるなんて。南無阿弥陀仏、みんな眠りなさい。眠れば苦しみも消える。人生とは修行の道なのだから……」
痩せた老人は独り言を繰り返していた。
健二は遺体安置ケースを見ながら、鳥肌が立ち、さらに身を低くして、老人に見られないようにした。同時に心の中で不思議に思った。さっきあれだけの物音がしたのに、この老人は聞こえなかったのか?
科学的に説明がつかない!
夏川清美はあの人たちが必ず遺体安置ケースを探すだろうと予測していたので驚かなかったが、老人の独り言を聞きながら、足早に進み、発見されないように急いだ。
健二は我慢できずに尋ねた。「清美さん、彼には聞こえないんですか?」
夏川清美は彼に答えなかったが、健二がそう言い終わるや否や、独り言を言っていた老人は遺体の整理を終えると、片手で棚を支え、もう片手で腰をさすりながら、まだ喋り続けた。「私のこの腰も、もう何年ももたないだろう。そうしたら私も横たわることに……横たわることに……」
ここまで言って老人は言葉を止めた。健二は思わず振り返り、老人の皺だらけの顔に驚きの表情が浮かび、濁った目を見開いて、自分を見つめているのを目にした。
健二は全身が震え、唾を飲み込んだ。「清、清美さん……」発見されてしまった!
「お前たちは何者だ?」
健二の言葉が終わらないうちに、老人が突然大声で叫んだ。声には力強さがあり、先ほどの老いの独り言とは全く異なっていた。
その迫力に健二という屈強な男でさえ震え上がった。
「怖がらないで、怖がらないで。お前たちを怒鳴ったわけじゃない」そう言うと、今度は遺体たちを驚かせないようにと、急いで小声になり、遺体の一つを軽く叩いた。
健二の全身に再び鳥肌が立った。
あまりにも不気味だった!
身長180センチの屈強な男である彼は、20年以上も唯物論を学んできたが、今ではこの霊安室に並ぶケースの中の遺体たちが、突然一斉に蘇るのではないかと疑い始めていた。