夏川清美は足を緩め、慎重に前に進み、最後に窓の前で立ち止まった。
古い屋敷は長年の歴史があり、様式も古風で、窓枠は梅の花のように小さく区切られていた。夏川清美は慎重に近づき、中にいる人を覗こうとした。
「濱さん、調べましたが、本邸には誰もいません。突然空っぽになりました。正陽様が入院した時から準備していたようです」監視カメラを確認していた技術者が報告した。
「午前中だけで全員消えるなんてありえない。もう一度調べろ」鈴木濱は駐車場を離れた後、結城家の本邸の状況を知り、すぐに駆けつけたが、空振りに終わった。
彼には理解できなかった。ずっと本邸を監視していたのに、なぜ突然全員が消えてしまったのか。
技術者は首を振った。「屋敷全体の監視カメラが三時以降すべて停止し、復旧も不可能です。山腹周辺の住民は普通の村人ばかりで、何も聞き出せません」
「本当に狡猾だな。全員で潜伏して結城湊を育てるつもりか」鈴木濱は呟いた。
また別の者が尋ねた。「濱さん、正陽様の方はどうなっていますか?」
鈴木濱は痛いところを突かれ、冷たく「長くは持たない」と答えた。
「では山下の出入口に分かれて、正陽様の部下たちがどこに逃げたか調査しましょう。何か手がかりがあるはずです」中から誰かが提案した。
「ああ、安心しろ。逃げられはしない」鈴木濱は自分が仕掛けた駒のことを思い出し、陰険に笑った。
そのとき、監視カメラを復旧させていた技術者が突然「シッ」と声を上げた。皆が不思議そうに彼を見ると、彼は三階の監視カメラ画面を指さした。そこには窓に張り付いている太った人影が映っており、全員が一瞬で静かになった。
窓の外で、夏川清美は突然音が聞こえなくなったことに眉をひそめ、カチッという扉の開く音を聞くと、考える間もなく階下へ駆け出した。
「早く、彼女を捕まえろ!」広大な結城邸に誰もいないはずなのに、突然太った人物が現れたことで、全員が血が騒ぐように逃がすまいとした。
五人が三手に分かれ、すぐに夏川清美を一階の出口で追い詰めた。
夏川清美は荒い息を吐きながら、改めてこの体が太っているのは面倒だと嘆いた。逃げるのも追いつかない。