年配の恋人たちが、愛情を込めた会話を交わした後、ホテルの別室から手を繋いで婚約式場へと向かい、次の人たちのために場所を空けた。
夏川清美がドアを開けると、山田麗の視線と出会った。
反応する間もなく、山田麗は彼女に向かって平手打ちを振り上げた。
「あら、佐藤清美...」芝居がかった女性の声が、瞬時に周囲の注目を集めた。
夏川清美は体を横に避け、平手打ちをかわしながら、同じウェディングドレス姿で、まるで天女のように美しく化粧をした林夏美を軽蔑的な目で見つめた。
「林夏美、なんてひどい人なの?」平手打ちが空を切ると、山田麗は一瞬戸惑った後、夏川清美を指差して非難した。
夏川清美は周囲の視線を感じながら、不倫現場を押さえたかのように怒る山田麗を見て、「ふーん、私がどうひどいの?」と言った。
「あなた...あなた...」言葉が途切れ、山田麗は突然すすり泣き始めた。
それを見た山田麗の側にいた女の子は更に憤慨し、夏川清美を指差して、「デブ女、まだ知らんぷりして。姉と槙島様の動画を流したのはあなたでしょう?槙島様と婚約するのに、どうしてこんな酷いことするの?姉さんを潰したいの?」
夏川清美はしばらく考えてから、やっと思い出したように「ああ、山田さんと槙島様が愛を確かめ合ってた動画のこと?」
山田麗は体を震わせ、目を上げて夏川清美を睨みつけた。最初は演技のつもりだったが、夏川清美があまりにも露骨に動画の内容を口にしたため、恥ずかしさが本物になり、目も赤くなってきた。
傍らの山田美衣は、夏川清美の態度に一瞬驚いた後、怒って叫んだ。「みんな見て!このデブ女は姉の彼氏を奪っただけじゃなく、恥知らずな発言までして、本当に厚かましいわ!」
夏川清美はその時になって、山田美衣が自撮り棒を持ってライブ配信をしていることに気付き、眉をひそめて「どいて」と言った。
藤堂さんと約束した通り、二時間おきに木村久美の様子を見に行かなければならない。
「なに?後ろめたいの?それとも自分の醜い姿が姉のファンを驚かせるのが怖いの?」そう言いながら、山田美衣はわざとスマートフォンを夏川清美に向けた。
山田麗のライブ配信画面は瞬く間にコメントで埋め尽くされた。
夏川清美は一瞥しただけで、最も目立つコメントをいくつか見た。