エレベーターの中は静かだった。
夏川清美が命の危機に瀕していた時のような、物理現象を超えた精神的な静けさとは違う。
本当の静けさだった。
顔のぼやけたボディーガード二人がそれぞれ隅に立ち、呼吸も軽く、意識して注意を向けなければ、彼らの存在さえ感じられないほどだった。
そして結城陽祐は端正な顔を曇らせ、彼女が先輩は槙島様だと言った後、一言も発していなかった。
夏川清美の気のせいかもしれないが、彼が怒っているように感じた。でも、何に怒っているのかわからなかった。
彼女が槙島秀夫の子を産んだことに、なぜ怒るのだろう?
しかし、このような状況で、夏川清美も尋ねづらかった。
特に結城陽祐は彼女を救うために自分を危険にさらし、健二があの銃弾を受けていなければ、結城陽祐の今の状態では、撃たれるどころか、銃弾の衝撃だけでも命取りになっていただろう。
そう考えると、夏川清美は傷ついた唇を噛んで、「病室の配置を元に戻すか、別の病室に変えてもいいです。今日は私を救ってくれて、前の手術のことは帳消しにしましょう」と言った。
夏川清美は深く考えなかった。彼女は結城陽祐の命を救い、今日は彼が彼女の命を救った。命には命で、当然お互いに借りはない。
それに、彼女が以前結城陽祐に出した条件は、林明里が結城家に嫁ぐのを阻止するためで、拒否された後に意地になって結城陽祐を困らせただけで、もともと実際の意味はなかった。
今やこの男が彼女を救ってくれたのだから、もう彼を困らせる必要はない。
林明里については、何度も彼女の命を狙い、前の彼女にも命の借りがある。許すわけにはいかない。そのうち結城陽祐も林明里の婚約者として、いつか彼女と対立することになるだろう。
その時に借りがあるよりも、今のうちにお互い借りなしにして、敵対する時も遠慮する必要がない。
しかし夏川清美の言葉が終わると、エレベーター内の温度が急に数度下がったように感じ、雰囲気はより冷たく、より固くなった。
彼女は思わず車椅子の男の方を横目で見た。あまりにも整った顔に感情の欠片も見られず、無表情で前方を見つめているのに、どうしても冷たく、不機嫌に感じられた。
普段から男性の機嫌の取り方がわからない夏川清美は、思い切って一歩後ろに下がり、二人のボディーガードのように自分の存在感を薄めることにした。