結城陽祐の視線が彼女の耳たぶに釘付けになるのを避けるため、夏川清美は仕方なくイヤリングを外した。
結城陽祐はその丸みを帯びた白くて柔らかい、完璧な耳たぶを見て、全身がすっきりした。「槙島家の方は婚約を取り消していないけど、出席するつもり?」
「もちろん行くわ」夏川清美は今日、槙島秀夫のこの婚約式に参加する本当の目的を忘れていなかった。
しかし彼女がそう言うと、結城陽祐は意味深な目で彼女を見た。「未練があるの?」
夏川清美は理解できず、困惑して尋ねた。「何に未練があるの?」
「まあ、あなたに子供を産ませた男だからね」ぽっちゃりくんが彼女が槙島秀夫の子供を産んだと言ったことを思い出し、結城陽祐の気分は妙に悪くなり、声にも皮肉な調子が混ざった。彼女がいつになったら正直に話してくれるのか、とても気になっていた。
夏川清美は言葉に詰まり、口を開いたり閉じたりしながら、説明しようとした。しかし、最初から本当のことを言わなかったことは、今さら話そうとしても言い出しにくく、特に彼女自身、なぜこの男性と子供を持つことになったのかさえ分からなかった。
密かにため息をつき、「婚約式のことについて話しましょう」
夏川清美のこの態度を見て、結城陽祐の気分は更に悪くなった。しかし今、ぽっちゃりくんの話を暴露して、子供が自分のものだと知っていたと言うのは、面子が立たなかった。
「いいよ、理由を聞かせて」結城陽祐は高ぶる気持ちを抑えたが、澄んだ声にはまだ少し苛立ちが混ざっていた。
事態がここまで来ると、夏川清美には結城陽祐に隠す必要はなく、雲おばさんの状況を説明した。
話を聞き終わった結城陽祐は、ただ一点だけを捉えた。「最初から槙島秀夫と婚約するつもりはなかったの?」
「どうして人でなしと婚約なんかするの?」夏川清美は困惑した表情を浮かべた。槙島秀夫が人でなしだということは周知の事実だと思っていたが、言い終わってから、自分が結城陽祐に槙島秀夫の子供を産んだと言ったことを思い出し、すぐに気まずい笑みを浮かべた。「へへ」
結城陽祐は夏川清美の気まずさに気付かず、むしろ彼女の言葉によって、さっきまでの鬱々とした気分が和らいだ。ドアの外にいる野村越に指示を出した。「彼女を送っていけ」