第183章 婚約式が始まる

結城陽祐はすぐにその知らせを受け取った。

野村黒澤が近づいて来て、「若様、セキュリティシステムは起動しました。他に何かご指示は?」

「お爺さんと木村久美の安全を確保して、彼らの動きを監視しろ」結城陽祐は夏川清美の前でも遠慮なく言った。

夏川清美は以前の出来事から、結城家の平和な表面下には激しい暗闘が渦巻いていることを知っていたが、結城陽祐が直接話すのを聞くのは初めてで、少し驚いた。この男は、叔父たちが婚約式を台無しにすることを恐れていないのだろうか?

結城陽祐は横目で夏川清美の目に浮かぶ疑問を見て取り、「ん?」と声を掛けた。

「叔父さんたちとそんなに深い確執があるの?」普通、遺産争いでもここまで命を懸けることはないはずだ。結局は血の繋がった家族なのだから。

「母を殺され、父を殺された恨み、どう思う?」結城陽祐の目に冷たい感情が渦巻き、夏川清美の体が震えた。彼女は結城陽祐を呆然と見つめた。まさかそこまで深刻だとは。

それなら和解の余地はないだろう。

でも結城お爺さんがまだ生きているのに、こんな殺し合いをしていていいのだろうか?

結城陽祐は夏川清美の反応を見て、口元の冷たさが消え、薄く笑みを浮かべた。「後悔した?」

「まだ間に合うの?」

「もう遅いよ」夏川清美は真剣な表情で言ったが、それが逆に結城陽祐の笑いを誘い、容赦なく答えた。

夏川清美は何も言わなかった。

今日、結城陽祐と婚約する。たとえ将来本当に結婚することはなくても、木村久美が結城家にいる限り、彼女は結城陽祐との関係を断ち切ることはできない。

だから、この男と一緒にいようといまいと、彼女は運命的に彼と結びついている。今更後悔しても、確かにもう遅い。

「うん、じゃあ入場の準備をしよう」林夏美の偽善と策略に比べて、ぽっちゃりくんの率直さ、さらには露骨な悪さまでもが、彼にとってはむしろ気が楽だった。

「うん」夏川清美は頷き、結城陽祐の車椅子と並んで外へ向かった。

野村黒澤は静かに後退し、音楽が流れ始めた。

ぽっちゃりな女性と病弱な男性が、『最も大切なあなた』の感動的な歌声の中、レッドカーペットの上をゆっくりと進んでいく。

ピンク色の花びらが空中に浮かぶバルーンから降り注ぎ、花の壁で作られた通路は、人々をロマンチックなおとぎ話の世界へと導いた。