第209章 私の可哀想な清美

自分が結城陽祐の人生最大の汚点になっていることを知らない夏川清美は忙しかった。

木村久美はもうすぐ三ヶ月になり、最初ほど甘えなくなったものの、機嫌を取るのは相変わらず大変だった。

幸い、藤堂さんは経験豊富で、結城家の使用人たちも行き届いていたため、夏川清美の時間に余裕ができた。

空き時間を見つけては、雲さんの引っ越しを手伝った。

林家での辛い労働から解放され、束縛もなくなった雲さんの顔色は随分良くなった。

一生懸命働いてきて、ようやく晩年に休息を得られた。小さいながらも洗練された内装の家を見て、目に涙が溢れた。

「こんな家、私なんかが…」雲さんはマンションの入り口で躊躇した。

夏川清美は雲さんの手を取って中に導いた。「誰があなたにあげるって言ったの?林家には私はもう戻れないから、このマンションは私の個人資産よ。私がいない時は見ていてくれて、いる時は料理と掃除をしてくれればいいの」

「でも私は…」

「もういいの、私の面倒を見たくないの?」夏川清美は雲さんの言葉を遮って真面目な表情で尋ねた。

「でも、マンションの所有権が…」雲さんは所有権が自分の名義になっていることを知っており、まだ不安そうだった。

夏川清美は気にする様子もなく、「あなたの名義だからこそ安心なの。私の名義だと、あの母娘がどんな面倒を起こすか分からないもの」

元の記憶から夏川清美は知っていた。雲さんは孤児で、矢崎家に育てられ、元々矢崎お母さんが結婚の手配をしようとしていたが、一歳にも満たない林夏美を残して他界してしまった。

雲さんは孤児の面倒を見るため、一生独身を通した。

夏川清美は元の記憶から、彼女が雲さんに対してとても申し訳なく思っていることが分かった。

そして夏川清美が林家に転生してから、唯一彼女に温かさと愛情を与えてくれたのが雲さんだった。雲さんの老後の面倒を見ることは、前世の願いを叶えることであり、自分自身のための後ろ盾を作ることでもあった。

鈴木の母娘の話を聞いて、雲さんの目が暗くなった。「清美ちゃん、私たちが鈴木政博を訴えることで、あの母娘はきっとあなたを許さないわ。やっぱり取り下げた方が…」