夏川清美は出てきて木村久美を藤堂さんに渡し、健二の方を見て、「何かあったの?」と尋ねた。
「よく分からないんです」健二は頭を掻きながら、少し心虚そうに答えた。
夏川清美は健二を横目で見て、「ふーん」と言った。
健二は「……」
黙って横に退いて、夏川清美に道を譲った。研究室で清美さんが注射一本で彼を気絶させたことを、まだよく覚えていたからだ。
夏川清美は結城陽祐が何のために自分を呼んだのか分からなかったが、あの日病室であまりにも慌ただしく親密な雰囲気だったため、結城陽祐に聞きたいことがたくさんあった。相手が自分を呼んでいるなら、ちょうどいい機会だと思った。
木村久美を少し落ち着かせてから、夏川清美は健二について病院へ向かった。
意外にも林夏美もいた。
夏川清美は横を向いて健二を見た。健二の硬い表情が赤くなっていた。
彼も、林お嬢様がまだ病室にいるとは思っていなかった。
元カノと今カノが一緒にいて、しかも姉妹同士とは、世の中にこれ以上の気まずい状況があるだろうか?
夏川清美が入ってくるなり、林夏美の挑発的な視線と目が合った。彼女は口角を少し上げ、落ち着いた様子で結城陽祐を見て、「二少、何かご用でしょうか?」と尋ねた。
この態度があまりにも気楽で、林夏美の挑発的な目つきに疑惑の色が混ざった。このデブ女、どうして二少にこんな態度を取れるのか?
結城陽祐は夏川清美の服装を一瞥し、うん、普通だと確認して安心した。そして林夏美の方を見て、「来たぞ、話してみろ」と言った。
「二少……」林夏美は車椅子に座っておらず、支えているのは山田真由だった。林家の元メイドで、前回夏川清美をいじめたことで異動させられ、今回林夏美が怪我をしてから、鈴木末子に会社から呼び戻されて林夏美の世話をすることになった。
今、夏川清美を見て、怒りに満ちた表情を浮かべていた。
一方、林夏美は可憐な白百合を演じ、か細い声で二少と呼びかけると、山田真由は察して彼女を結城陽祐のベッドの方へ支えて行こうとした。
しかし結城陽祐は冷たい目で見て、「健二」と呼んだ。
健二はすぐに前に出て、林夏美たち二人の前に立ちはだかり、「林お嬢様、話すなら話すだけにしてください。興奮しないように」と言った。
「プッ」夏川清美は健二の真面目くさった態度に思わず笑ってしまった。
林夏美は「……」