夏川清美は不思議に思った。結城陽祐がなぜ実家に戻ってきたのだろうか?
そう考えていた時、赤ちゃんの部屋のドアが開き、彼女は顔を上げると車椅子の男性を目にした。
夏川清美は思わず、自分が脱いだばかりの上着を見た。
結城陽祐は夏川清美の視線の先を追い、その上着が脱がれているのを見て気分が少し良くなった。しかし、彼女の首元に目が留まった時、急に表情が暗くなった。「どうしたんだ?」
夏川清美は意味が分からず、「何がどうしたんですか?」
そう言って夏川清美は結城陽祐の視線に従って下を向くと、自分のシャツのボタンが二つ開いていて、林夏美に火傷させられた箇所が丸見えになっているのに気づいた。
「大したことありません」夏川清美はあまり気にしていなかった。ただの火傷の赤みだった。
「火傷か?」結城陽祐は大したことないとは思えなかった。ぽっちゃりくんは白い肌をしていて、珍しいほど繊細な白さだった。今は赤く腫れており、あたかも母斑のように見え、恐ろしい様相を呈していた。
前回の婚約パーティーでいわゆるインフルエンサーのファンに引っ掻かれた傷がまだ完全に治っていないのに、今度は胸元に火傷を負うなんて。このぽっちゃりくんは自分のことを全く大事にしていないのか、それとも本当に愚かなのか。
なぜか結城陽祐は非常に腹が立った。
「はい、あなたの元婚約者がやったことです」夏川清美はこの男性が怒っている理由が分からず、少し意地悪く言った。
「林夏美か?」その名前を聞いて、結城陽祐は思わず眉をひそめた。
「はい、でも私も彼女に二杯返しましたから、陽祐さんは心配しないでください」夏川清美は結城陽祐の突然しかめた眉に向かって、肩をすくめた。
しかし、彼女自身も気づいていなかったが、その口調には試すような響きが含まれていた。
結城陽祐は夏川清美を横目で見た。彼が心配するわけがない。
「分かった。服を持ってきて」結城陽祐は既に表情を取り戻し、夏川清美が先ほど脱いだ上着を指さした。
夏川清美の瞳に失望の色が過ぎり、すぐに意地悪な笑みを浮かべながら唇を舐めた。彼女はこの男性が潔癖症だということは知っていたが、こんなにひどいとは思わなかった。体調が悪いのに病院から戻ってくるなんて。もうこれ以上からかうのは控えめにして、急いで上着を渡した。