第288章 確認済み、実の息子

「どうやって出て行けばいいんだ?」結城陽祐は声を潜めて尋ねた。

夏川清美は「……誰も胸を見つめたりしないわよ」と言った。

しかし、夏川清美がそう言わなければよかったのに。言われた結城陽祐はさらに苛立った。前回、お爺さんに反発して、冗談で自分は不能だと言ったら、老人は電話で泌尿器科病院を紹介してもらい、今では業界中に手術失敗で不妊になったと知られてしまっている。

今度は息子におしっこをかけられて、このまま出て行けば、また何を噂されるか分からない!

「子供を置いて、着替えを取りに行け」結城陽祐は命令した。

「健二が……」

「お前が行け!」夏川清美が健二の名を出した途端、男の声が急に大きくなった。

夏川清美は震え、健二の性質を思い出してまた笑いそうになった。怒りに任せているものの、相変わらず美しい顔を見て、人前で面目を失わせるのは忍びないと思い、「はい」と答えて木村久美をベビーカーに寝かせた。「すぐ戻るわ。機嫌が悪くなったら、カートを押して回ってあげて」

「ああ」

夏川清美は、男のこの返事に特別な委屈を感じた。

ベビーカーに寝かされた小さな子供は、悪いことをした自覚が全くなく、おとなしく寝ているわけでもなく、両足をベビーカーの柵に乗せ、布製の起き上がりこぼしを抱えながら、かっこよくぺちゃぺちゃと口を動かしていた。

結城陽祐は「……」

確認済み、実の子供だ。

夏川清美は急いで結城陽祐の部屋に行き、男がいつも着ている上着を選び、こっそりと育児室に戻った。

結城陽祐は怒っていたものの、小さな子供をないがしろにはしなかった。夏川清美が戻ってきた時、父子二人は仲良く過ごしていた。背の高い男が幼い起き上がりこぼしを手に持ち、木村久美の上で揺らすと、小さな子供は手を伸ばしてあーあーと奪おうとし、飽きることなく、笑い声が絶えなかった。

夏川清美はドア口に立ち、しばらくの間、邪魔するのを躊躇った。

前世では父親が誰なのかも知らなかったが、今世では父親がいるのに、いない方がましだった。だから普通の人以上に、子供が健全な親子関係を持つことを望んでいた。以前は結城陽祐のような男は父親には向いていないと思っていた。

しかし、この瞬間、自分が間違っていたと突然気付いた。

この男の冷たい骨の奥深くには、まだ温かさが残っていた。