書斎。
結城陽祐は健二の報告を聞き終わると、「加藤迅が直接持ってきて、佐藤清美に夏川お爺さんへ渡すように頼んだのか?」と尋ねた。
「はい、加藤院長がそう仰っていました」健二は慎重に思い出してから、間違いがないことを確認して答えた。
「そうか。あの日、清美はほかにどこかへ行ったのか?」結城陽祐は何か違和感を覚えた。ぽっちゃりくんがなぜその日加藤迅に会えたのか、彼女は特別に会いに行ったのだろうか?
もしかして、まだ昔の恋が忘れられないのか?
「それは...マンションだけです。でも、お電話をいただいた後、私は上の階に上がりましたが、若奥様を見つけるまでにかなり時間がかかりました。彼女は階を間違えたと言っていました」健二は耳の後ろを掻きながら、まるで二重スパイをしているような気分だった。
「階を間違えた?」結城陽祐は深く考え込んだ。心の中では、階を間違えるはずがないと確信していた。しかし、自分の元の部屋に戻ったという可能性は十分にあった。
そう考えて、結城陽祐は以前調査した夏川の資料を取り出した。案の定、住所欄から夏川先生の生前のマンションの場所をすぐに見つけ出した。偶然にも春江花月荘だった。
さらに偶然なことに、雲さんのマンションと同じ建物で、階が違うだけだった。
もし彼の推測が間違っていなければ、夏川清美は以前の自分のマンションに戻り、そこで加藤迅に会ったのだろう。
彼が調べたところによると、加藤迅は夏川の死後、彼女のマンションの隣に引っ越し、さらに夏川清美のこの部屋を購入しようとしたが、夏川お爺さんに断られた。
この点について結城陽祐は驚かなかった。
結城財閥は医療業界に携わっており、医学の専門家や古参の先生方を非常に尊敬していた。結城陽祐は早くから夏目家の夏川お爺さんのことを知っていた。
彼は漢方医学界で非常に高名で、尊敬されていたが、奇癖と悪い性格でも有名で、まるで武侠小説に出てくような、世間から身を隠し、気分次第で人を助ける神医のような存在だった。
噂によると、彼の一人娘は彼の奇癖に耐えられず家出をし、後に夏川清美を産んで夏目家に送り返したが、家門の恥として老人に追い出されたという。
その後、さらに目立たない生活を送り、誰も彼を動かすことができなかった。孫娘が一躍有名になるまで、再び世間の注目を集めることはなかった。