「はい」
結城陽祐は夏川清美の感情に影響され、声が軽やかになった。
夏川清美は満足げに、思い切って車の窓を全開にし、頭を外に出した。車は青い石畳の道を走り、ひまわり畑や薬草園、ローズガーデンを通り過ぎ、さらにブドウ棚まであった。8月末は、まさにブドウが実る季節だった。
紫色の実が蔓に豊かに実り、夕陽の余光に黄色く輝いて、とても魅力的だった。夏川清美は思わず数個摘んで味わってみたくなった。
結城陽祐は彼女の気持ちを察して、「今日は遅いから、明日の朝に摘みに連れて行くよ」と言った。
「本当?素敵!結城家にこんな素晴らしい場所があるなんて、あなたと結婚して損じゃなかったわ」
「ふん、つまり今まではわたしと結婚して損だと思っていたということか?」結城陽祐は夏川清美の言葉の矛盾を聞き逃さなかった。
夏川清美は車内の温度が急激に下がったのを感じ、少し寒気がした。「そんなことないわ。むしろ、損してるのはあなたの方よ」
この強い生存本能!
車は10分以上走って、ようやく本館が見えてきた。近代建築様式で、結城家の本邸ほど古風ではないが、見た目は非常に心地よかった。
しかし、夏川清美がこの場所で最も印象に残ったのは、建物でもなく、至る所に漂う田園の雰囲気でもなく、その広さだった。
とてつもなく広い。
夏川清美は、この土地が千エーカー以上あるのではないかと疑った。
京都の土地が金より高価なことは誰もが知っている。彼女と祖父が以前住んでいた四合院はたった200平方メートルで、市場価値は2億円と評価されていた。目の前のこの巨大な敷地を、結城家はいったいどうやって手に入れたのだろう?
「この土地は大正時代から結城家の名義で、何代にもわたって修繕を重ね、今の姿になったんだ」結城陽祐は夏川清美の疑問を察して説明した。
「じゃあ、結城財閥の人たちはみんなここに住んでるの?」夏川清美は好奇心を抑えきれずに尋ねた。もしそうなら、毎日権力争いに直面することになるのではないか。
「いや、今は私の個人名義になっている」
夏川清美は口を少し開けたまま、なぜ結城家の他の二家が結城陽祐をこれほど憎んでいるのか理解し始めた。
もし自分だったら、父親がここまで偏愛するなら、やはり恨むだろう。