林富岡は警察署を出るとすぐに結城陽祐に電話をかけた。
夏川清美との関係で結城陽祐を問い詰めることはできなかったが、それでも我慢できず、震える声で尋ねた。「あれは本当に清美ではないのですか?」
結城陽祐は林富岡に好感を持っていなかったが、警察署での彼の態度を聞いて珍しく反感を覚えなかった。「清美のことは私が処理します。」
「でも……」林富岡は確実な答えを得られず不安だったが、「でも」と言いかけて何を言えばいいのか分からなくなった。何を言っても適切ではないと気づいたからだ。清美の子供に会いたいとも思ったが、口に出すことができなかった。
しかし、このまま信州市に帰ることもできなかった。
電話を切ると、林富岡は警察署の近くのホテルを予約した。もし清美が本当に生きているのなら、彼女が戻ってくるのを待つしかなかった。
結城陽祐は警察の動きを常に監視させており、林富岡の行動も把握していた。そんな中で別の考えが浮かび、ちょうどそのとき陸田亮典から電話がかかってきた。
「あなたが調べてほしいと言った件について分かりました。警察のデータベースにある林夏美と加藤迅の情報が改ざんされていたことが分かりました。もし同意していただければ、もう一度検査を行いたいと思います。できれば林夏美の第一血縁者の血液サンプルで確認したいのですが。」陸田亮典は、結城陽祐が遺体の判断だけで林夏美本人ではないと見抜けたことに驚いていた。
「必要ありません。彼女は最初から別人でした。」結城陽祐は断ったが、次の瞬間、林富岡のことを思い出した。林富岡と夏美のDNA鑑定をさせることができるかもしれない。
加藤迅が死んでいないのなら、きっと国内の状況を常に監視しているはずだ。もし林富岡と夏美のDNAが一致して夏美の死亡が証明されれば、相手が何らかの形で動くかもしれない。
陸田亮典がこの男はいつもの通り傲慢だと思った矢先、新しい提案を聞いた。「本当にそれでいいのか?」
「警察のデータベースを改ざんできる者がいるなら、検査結果も改ざんできるはずだ。監視をお願いしたい。」結城陽祐は当然のように言った。
「はっ、私があなたの手先というわけですか?」陸田亮典は呆れて笑った。