第608話 清美、やめて……

「この売女!」銃を持った男は痛みに耐えながら呪いの言葉を吐き、夏川清美に向かって発砲した。

夏川清美は相手の反応の遅さに乗じて、相手の急所を蹴り上げ、すぐに逃げ出した。

バン!

銃声が突然背後で響き渡った。幸い、相手は先ほどの一撃で狙いが定まらず、弾丸を避けることができたが、その瞬間加藤迅と正面衝突してしまった。

彼は彼女を後ろに引き寄せ、「清美ちゃん、大丈夫?怪我はない?」

夏川清美は急いで首を振った。

この時、隣の別荘にいた人々がこちらの物音を聞きつけ、急いで駆けつけてきた。

殺し屋は自分の存在が露見したことを悟り、もはや執着することなく、別荘の裏口から逃走した。

夏川清美はそれを見て深いため息をつき、先輩の体から漂う強い酒の匂いを嗅ぎ、目に自責の色を浮かべながら、「大丈夫ですか?さっきの人は誰だったんですか?」

「私は大丈夫だ。さっきの人は...」先ほどの人について触れると、加藤迅は来る時に切った電話のことを思い出し、表情が曇った。少し間を置いて答えた。「加藤正志は私が生きていることを知っている。」

「生きていることを知っている?」夏川清美は少し困惑した様子で、加藤正志は先輩のお父さんではないのか?田中家に何かあったのに、なぜ先輩を殺そうとするのか?

夏川清美の困惑した表情を見て、加藤迅は彼女が自分のしたことを知らないことを思い出し、しばらく沈黙した後で口を開いた。「田中家の犯罪の証拠を暴露したのは私だ。」

「なるほど。」夏川清美は納得がいった様子で、感慨深げな表情を浮かべながら、先輩に対して同情の念を抱いた。どう考えても彼は加藤正志の息子なのに、相手は本当に手を下そうとしたのだ。

しかし、言い終わると、突然先ほどの殺し屋の言葉を思い出した。相手は林夏美を探していた。つまり、加藤正志の標的には彼女も含まれているということ?

「久美が目を覚まして、あなたを探しているわ。」夏川清美が加藤迅を慰めようとしたその時、物音を聞きつけた結城陽祐は先に今日の来訪者を調べるよう人に指示し、隣の庭で親しげに立っている男女を見て、空気を読まずに邪魔を入れた。

加藤迅は結城陽祐を一瞥し、良い表情ではなかったが、以前のように夏川清美を止めることはしなかった。「私は戻るよ。君は...久美の面倒を見てあげて。」