神木彰は躊躇することができなかった。
3分後、医者が病室に来た。
夏川清美は横で静かに医者が男の傷を処置するのを見ていた。顔が歪みそうになった。
彼女は先ほど恥ずかしさと怒りで、彼の傷のことを忘れていた。
結城陽祐は横に座り、表面上は冷静そうに見えたが、実際には夏川清美の反応を注意深く観察していた。心の中では喜んでいた。この自作自演の策は効果があったようだ。
医者が去った後、結城陽祐はベッドに横向きに寝て、一言も発しなかった。
神木彰は空気を読んで退室した。
夏川清美は布団をかぶったまましばらく我慢していたが、最後には耐えきれず、「痛い?」と聞いた。
「痛くない」結城陽祐は強がり続けたが、眉間にはしわが寄っていた。
「見せて」夏川清美は眉をひそめた。痛くないはずがない。先ほど医者が傷の処置をするのにかなり時間がかかっていた。
しかし結城陽祐は夏川清美に見せたくなかった。確かに痛かったが、それ以上に彼女に心配してもらいたかった。本当の傷を見せるつもりはなく、意図的に眉を上げて「見たら責任取ってもらうよ」と言った。
夏川清美は動かず、彼を見つめ続けた。
結城陽祐は夏川清美のその視線に居心地が悪くなり、指先で鼻を撫でながら「本当に大丈夫だよ。さっきは君に心配してもらいたくて、わざと医者を呼んだんだ」と言った。
「向こうを向いて」夏川清美は掠れた声で命じた。
「僕は…」
「責任取って欲しいんじゃなかったの?見たら責任取るわ」夏川清美は結城陽祐の拒否の言葉を遮った。
結城陽祐は呆然とした。この誘惑は大きすぎた!
夏川清美の目を見つめながら、結城陽祐はしばらく躊躇した後、ついに折れた。「じゃあ...いいよ。さっきの言葉、忘れないでね」
実は結城陽祐も自分の背中の傷がどんな状態なのか分からなかった。転んだ時は確かに痛かったが、そこまで深刻だとは思っていなかった。幼い頃から受けてきた怪我に比べれば、この程度の傷は大したことではなかった。先ほど医者を呼んだのは、ただぽっちゃりくんに心配してもらいたかっただけだ。今見られるのは少し気まずかったが、気まずさはともかく、夏川清美の提案は魅力的すぎた。
結城陽祐は体を向け、上着をめくった。