第611話 これって告白なの?

「大丈夫よ」夏川清美は一言返した。今の状況では、耐えるしか方法がなかった。

結城陽祐は心配で仕方がなく、「医者を呼んだ方がいいんじゃない?」

「医者を呼んでも鎮痛剤を飲むだけよ。意味ないわ。あと二、三日我慢すれば症状は軽くなるはず」夏川清美は医者だったので、自分の体調をよく理解していた。しかも、彼女は五感が人より敏感で、痛みも人の二倍だった。

「まだ二、三日も我慢しなきゃいけないの?」結城陽祐は一瞬頭が冴え、夏川清美の苦しそうな様子を見て、自責の念に駆られた。「あの時、止めるべきだった」

「私たちの過去のことを話してくれない?」夏川清美は結城陽祐の口から二人の物語を聞きたかった。

結城陽祐は少し驚いて、「私たちの過去のこと?」

夏川清美は頷いた。「私たちが愛し合っていたって言ってたでしょう?どんな風に愛し合ってたの?」

「それは...」結城陽祐は質問に戸惑い、どこから話せばいいのか分からなかった。どのように愛し合ったのか、彼はこの問題について深く考えたことがなかった。まるで気付かないうちに起こったことのように、心が予告なく動き、そして離れられなくなった。

「覚えてないの?」夏川清美は結城陽祐の瞳の奥で揺らめく光を見つめた。

「そんなはずないだろう。ちょっと考えさせてくれ」結城陽祐は言うと、回想に浸った。

夏川清美は横を向いて、男の真剣な表情を見つめながら、突然本当に期待し始めた。彼の口から語られる自分はどんな人なのかを。

「特に話すことはないかもしれない」夏川清美が期待に満ちた目で見つめている時、結城陽祐は突然そう言った。

告白を期待していた夏川清美は、「...」

「一つの物語を話そうか」結城陽祐は夏川清美の失望と怒りの入り混じった表情を見て軽く笑った。

夏川清美は目を閉じた。誰が物語なんか聞きたいの?

しかし結城陽祐の声は、静かな病室でせせらぎのように響き始めた。「王子様が道を歩いていると、一匹の狐が走ってきました。

『君は誰?』と王子様は言いました。『とても綺麗だね』

『私は狐です』

『一緒に遊ばない?』と王子様は言いました。『僕は悩んでいるんだ』

『遊べません』と狐は言いました。『まだ飼い慣らされていないから』

『飼い慣らすってどういう意味?』と王子様は尋ねました...」