ダニエルが去った後、夏川清美の気分は特に悪かった。
ただ他人の話を聞いただけなのに、なぜか喉に何かが詰まったような感じがして、体中が不快だった。
特に、なぜか脳裏にダニエルが話した、あの男が母親の腕の中で手首を切って自殺したという場面が浮かんでしまう。
彼女は外科医で心理学も副専攻していたが、人の心理世界は本当に複雑だ。
特に心の病を抱えている人は。
「不快に感じるなら断ればいい。必ずしも助ける必要はない。そんな義務はないんだ」結城陽祐は先ほどから夏川清美の顔色が悪くなっているのに気づき、ダニエルの母親の話に強い不快感を示していることを察していた。
「会ってみたいの」夏川清美は結城陽祐の意図を理解しつつ、男の手を握って静かに言った。彼女自身もなぜかはわからないが、特に会いたいと思った。