第714章 夜の訪れを待つ

夏川清美は高森杏の謝罪に何も感じず、資料を抱えたまま校外へ向かって歩き続けた。

ただ、彼女は高森杏の言葉を気にしないようにできても、矢崎碧里の最後の一言、「正陽様があなたを選んだのよ」という言葉を何度も思い出さずにはいられなかった。

矢崎碧里の言うことは間違っていなかった。最初は彼女から福田美沙紀に近づいて出世しようとしたが、最終的に彼女を結城二少の公式な婚約者にしたのは、矢崎碧里がどれほど有能だったかではなく、結城陽祐が彼女を選んだからだった。

ふう!

夏川清美は考えれば考えるほど腹が立ち、深呼吸して不機嫌そうに車に乗り込んだ。

今日の矢崎碧里は一見謙虚な態度を見せていたが、一言が毒針のように彼女の心を刺した。

夏川清美はまた結城陽祐を刺したくなった。

昨晩の二針では全然足りなかった。