結城陽祐は車に乗り込むと、顔を横に向けて夏川清美から目を離さなかった。
夏川清美は見られて落ち着かず、「私の顔に何かついてる?」と聞いた。
「何でもないよ、ただうちのぽっちゃりくんがどうしてこんなに蜂や蝶を引き寄せるのか見てただけだ」と言いながら、結城陽祐は手を伸ばして夏川清美の頬をつまみ、彼女を自分の胸に引き寄せた。
夏川清美は手を伸ばして男の手を払いのけた。「そんなことないわ」
「ないって?加藤迅、藤原悠真、そして今は結城清まで加わった」結城陽祐はとても苛立った様子でそう言った。
夏川清美は言われて少し気まずくなった。「そう...かな?結城清は私のことを好きなわけじゃなくて、ただあなたに対抗して私を誘惑しているだけだと思うわ」
「そうかな?」結城陽祐はまだ自分がアトリエに入った時、結城清が夏川清美を見つめる目を覚えていた。その目の中の輝きはまるでミューズを見つけたかのようだった。
彼はあの男がただ自分を苛立たせたいだけだとは思えなかった。
夏川清美は結城陽祐の不信感たっぷりの「そうかな?」を聞いて、強引に「そうよ」と答え、さらに「安心して、私の心にはあなただけよ」と付け加えた。
生存本能は人を柔らかく甘くさせる。
結城陽祐は目の前の柔らかな女性を見つめた。おそらく以前は彼女のぽっちゃりした姿に慣れていたからだろう。その後、佐藤清美が痩せたとき、彼の関心は常に自分のぽっちゃりくんの体調にあり、彼女の外見にはあまり注意を払わなかった。しかし今回、佐藤清美が外見でネットユーザーに議論され、あちこちで恋の縁を作っているのを見て、彼は突然、夏川清美が最初に知り合った時の外見で軽蔑されていたぽっちゃりくんではないことに気づいた。
今の彼女はすでに本当の美人に変身していた。内側から外側まで輝くような美しさだった。
そう思うと結城陽祐の危機感はさらに強まり、彼女を自分の腕に抱き寄せた。もう何も言わず、ただ自分の顎を夏川清美の肩に乗せ、軽く擦り寄せた。
夏川清美は結城陽祐の落ち込んだ気持ちを感じ取り、今日彼が会社の上層部と取締役会から連名で社長の職を解かれたことを思い出した。この件については彼自身も早くから覚悟していたはずだが、実際に起こると気分は良くないだろう。
心が少し締め付けられる感じがして、結城陽祐の頬に寄り添い、「疲れた?」と尋ねた。