176- ようこそカンダートンへ、ママ!

「私はよく旅行に行くんです。どこでも行ったことがありますよ」と、廊下の真ん中で、ヴァレリーは小さな群衆に囲まれて立っていた。

通りかかる人は誰でも、その群衆に加わっていった。彼女はもはや時間の使い方がわからなくなり、これまでの年月で行ってきた旅行自慢を始めた。

「シンクレア夫人はどんな場所に行かれたんですか?」と、ある従業員が尋ねた。従業員に「シンクレア夫人」と呼ばれるたびに、彼女は血管を駆け巡る奇妙な喜びを感じた。

「まあ、指では数えきれないわ。最近行ったのはヨーロッパ一周よ。パリ、ミラノ、モンテカルロ...本当にたくさんの場所を巡ったわ」

デリンダとデンゼルは視線を交わした。ここ数日、二人はあまり会話を交わしていなかった。

群衆は目を見開いて、熱心に彼女の話に聞き入っていた。