287- 遺言状開示式は終わり!

(5年前)

「何を言っているんだ、ラファエル?」バーター氏は、実業家のラファエル・シンクレアからそんな馬鹿げた決断を予期していなかった。

「自分が何を言っているのか分かっているのか?彼女が自分の妻だと言ったこと以外、何も知らないじゃないか。財産を手に入れたら逃げ出すかもしれないぞ?」

椅子に寄りかかって目を閉じていたラファエルは、怠そうに微笑んだ。「彼女はもう逃げましたよ、バーター氏」彼は目を開けた。「でもね?彼女は一言も言わずに去った。一銭も持たずにね。でも、私の大切なものを持って行ったんです」

バーター氏は信じられない様子で目を見開いた。「何か盗んだのか?」

「盗んだわけじゃありません。バーター氏。彼女は私の子供を身ごもっているんです」そして年上の男性の目を見つめた。「助けが必要なんです。あなたしか信用できない。この取引は誰にも知られてはいけない。ママにも。ヴァレリーにも」

「もし」彼は身を乗り出し、声を落として言った。「シンクレア夫人がこのことを知ったら?」

ラファエルはその言葉に身を震わせた。「彼女がシンクレア夫人でもないのに、そう呼ぶのはやめてください」

バーターはそれ以上何も言えなくなった。この男を説得する方法が分からなかった。「自分の足元から地盤を崩しているんだぞ、ラファエル。家族の財産を台無しにするのを見過ごすわけにはいかない。祖父と父は億万長者になるまで上り詰めた。でもあなたはそれを何段階も先に進めなければならない。彼女があなたのしたことを知ったら、それを利用しない訳がない」

ペーパーウェイトを無意識に弄んでいたラファエルは、突然それを手放し、机の反対側に滑らせた。「彼女はそんなことはしない。もし彼女が過去2年間私と暮らしていた女性なら、私たちは互いを必要としているだけです、バーター氏。私は遅すぎることに気付いたんです。今、それを正さなければならない。彼女のために全てを正しくするのを手伝ってください」

バーターは、自分にとって全く別人のように見えるラファエルを見つめた。彼の成長を見守ってきたが、こんなに突飛なことをするのは初めてだった。