その時。
友達と一緒に遊びに来たばかりの、表情の冷たい土屋遥は、顔を上げるとその光景を目にした。
灰原優歌は上がった目尻に笑みを浮かべ、ステージで演技している人に向かって無造作にグラスを掲げた。彼女から視線を逸らすことなく、少しずつ首を傾けて飲み干した。
その様子を見て。
ステージで妖艶に踊る女性は、なぜか心臓の鼓動が速くなり、顔が熱くなった。
一方、ステージ下で熱狂的に声を上げる人々は、何も異常に気付いていなかった。
その後。
「このお姉さん、すごすぎだろ!男女問わずモテるの?初めて見たわ!!」
土屋遥の隣にいる友人が灰原優歌を見ながら感心した。
この顔なら、お姉さんの恋愛市場に参入したいと思った!
しかし、土屋遥の表情は暗くなった。
彼のクラスメイトは、どうやら自分よりも私生活が乱れているようだ。
バイトを探しているなんて嘘を信じてしまうなんて!
「でも、どこかで見たことあるような気がするんだけど、土屋兄さん、どう思...」
友人が言い終わる前に、土屋遥はそのまま立ち去った。
「あれ、土屋兄さん!待ってよ!」
……
バーカウンターにて。
ステージを降りた女性は灰原優歌の側に寄り、愛らしく微笑んだ。
「お一人様でしたら、こちらに座らせていただいてもよろしいでしょうか?」彼女は興味深そうに優歌を見つめた。
実は、彼女のような芸能界で数年過ごした者にとって、高い容姿レベルには既に免疫があった。
しかし目の前のこの人は、一目見た瞬間、頭の中で自然と結論が出た。
あまりにも美しく、それなのに笑みを湛えた瞳には温もりがない。
未知の感覚を与え、思わず近づきたくなる魅力があった。
「入り口でカメラを持った人を見かけたわ。先に服を着替えた方がいいんじゃない?」
優歌は顔も上げずに言った。
その言葉を聞いて、女性は体が強張り、顔のマスクに触れた。
「私だと分かったの?」
「高音が安定していて、イメージもよく、ダンスの基礎もしっかりしている。売れないの?」
優歌はまるで何気なく話題を振るかのように言った。
しかし、それは女性の急所を突いていた!
彼女は確かに感覚を掴むためにここでバイトをしていた。だが今のところ、彼女の本当の身分を知っているのは二人だけだった。