第29章 妹が入ったみたい

「楽しい所に行くわ」

灰原優歌のゆったりとした声に、柴田の父の表情が急に険しくなった!

元々灰原優歌は勉強が苦手で性格に欠点があったが、それほど深刻ではなかった!しかし今のように無軌道になったわけではない!

まったく手に負えない!

「灰原優歌、お前に裕香のように分別があって賢くなることは期待していないが、せめて言うことを聞けないのか?!」

柴田の父は怒り出した。

傍らの柴田裕香はこの光景を目に収め、口角の弧を軽く押し下げた。

彼女も初めて柴田の父が怒るのを見た。

その時。

灰原優歌はすでに遠くに行ってしまい、柴田の父の最後の言葉を聞いたかどうかは分からなかった。

「子供を自分の側で育てないと、やはり他人のようになってしまうものだ」

柴田の母はスープを一杯すくい、柴田裕香に渡した。

二杯目を柴田浪にすくおうとした時、柴田浪は箸を置いて外に向かって歩き出した。

柴田の母の表情が変わった。「柴田浪、どこに行くの?!」

「妹を探しに」

柴田浪は野球帽を被って端正でイケメンな顔を隠し、少し皮肉っぽく言った。

この言葉に、柴田の母の表情が何度も変化した!

「柴田浪!」

柴田浪は振り返りもせずに玄関の暗がりの中へ走り去った。

柴田の母はこの時になってやっと、柴田裕香が言っていた柴田浪が変わったというのは本当だったと気付いた。

……

MUSEバー。

個室内は雰囲気が艶めかしく、客は女性の腰に手を回して戯れていた。

ただ一人、長い脚を組んでくつろいだ姿勢の男が、背をソファに預けて整った指で煙草を挟んでいた。

まるで周りの一切が彼とは無関係であるかのように。

この時、多くの女性が遠くにいる心臓の鼓動を加速させるその男性を密かに眺めていた。

しかし、彼の冷淡な表情のせいで近寄る勇気が出なかった。

「渡様、お相手はいりませんか?」

社長は顔中に皺を作って笑いながら、へつらうように言った。

その言葉が落ちると。

数人の女性が我慢できずに見つめ、選ばれることを願った。

「自分のことだけ気にしていろ」

久保時渡は冷ややかな口調で言った。

たちまち、社長は背筋が凍り、それ以上何も言えなかった。

周りの人々も、この方のせいで、派手に騒ぐこともできなかった。

久保時渡は腕時計をちらりと見て、あと30分で帰ろうと考えた。