第50章 鹿のように心臓が高鳴る

灰原優歌はその言葉を聞いて、壁にもたれかかりながら軽く笑った。

「知りたくないわ。私を不機嫌にさせないでください。さもないと、おじいさまにあの病院の院長が誰の実の父親なのか知られることになりますよ。

おじいさまは柴田裕香を追い出すでしょうか?」

柴田の父は体が凍りつき、怒りを胸に溜め込んだ。「私を脅しているのか?」

彼は思いもしなかった。灰原優歌がいつの間にか、彼に堂々と反抗するようになっていたとは!

「そうよ。彼女を追い出したくないなら、私を怒らせないことね。」

灰原優歌は物憂げに首を傾げ、赤い唇を曲げて、艶やかで大胆な様子を見せた。

……

書店を出た後。

灰原優歌は車の窓際にいる男性を見上げると、途端に気分が良くなった。

清楚で気品がある男性のシャツの襟元は二つのボタンが開いており、白く清潔な首筋は、緩んだ襟元から性的魅力のある逞しい胸元へと続いていた。