第49章 私が大人しい性格に見えますか?

内田和弘はその考えを振り払い、灰原優歌との出会いは偶然だと自分に言い聞かせた。

彼は深いため息をつき、険しい表情で書店を後にした。

車の中で待っていた久保時渡は、明らかに人を待つのは初めてで、眉を上げ、整った指で少しイライラしながらネクタイを引っ張った。

あの子は誰に会ったんだ。

こんなに長く話す必要があるのか?

……

書店二階のカフェカウンター。

入ってきた吉田麻奈未は妙な気分になった。大学卒業後、もうここには来ないと思っていたのに。

「灰原さん?」

吉田麻奈未は灰原優歌の姿を探した。

「これがデモです。聴いてみて、良ければ編曲を始めましょう。」

灰原優歌は彼女にBluetoothイヤホンを渡した。

吉田麻奈未はすぐに受け取り、40~50秒のデモを聴き終わると、目に驚きの色が浮かんだ。

思わず灰原優歌を見つめた。

20歳前後に見えるこの少女の作曲レベルは、世界的な賞を受賞した海外の大物に全く引けを取らなかった。

「失礼ですが、灰原さんは誰に習ったんですか?」

灰原優歌の手の動きが一瞬止まり、しばらくして普段通りに戻った。

「母方の祖父です。」

前世で、彼女の祖父は国内外で名高い音楽家だった。ただし、祖父から教わったのはクラシック音楽だった。ポップスの編曲は、後にアーティストの友人の手伝いをする中で学んだものだった。

吉田麻奈未は羨ましそうに言った。「灰原さんのお爺さんはきっと温厚で慈愛に満ちた方なんでしょうね。そうでなければ、こんなに素晴らしく教えられないはず。」

灰原優歌は興味深そうに顔を上げ、皮肉っぽく笑って言った。「うちのピアノの上には、はたきが置いてありましたから。」

吉田麻奈未:「……」

こんなに教養のある家庭でも、そんなに庶民的なのか?

灰原優歌は子供の頃、いつも言うことを聞かない性格で、際限なく奔放だった。でも、可愛くて賢い子供に、どの大人が厳しく接することができただろうか?

特に灰原優歌のような、悪戯好きで甘え上手な子供がやらかした困った事には、灰原のお爺さんをいつも歯痒くさせたが、本気で叩く気にはなれなかった。

しばらくして。

吉田麻奈未がこのデモを決めたところで、灰原優歌の携帯が振動した。

「吉田さん、先に帰りましょう。」