第70章 私に補習?

一瞬。

柴田裕香の顔が真っ青になり、唇が小刻みに震えたが、何も言葉が出なかった。

……

久保時渡が戻ってきたとき、灰原優歌が助手席で頭を支えて座っているのが目に入った。

「お兄さん?」

灰原優歌はすぐに久保時渡を見つけ、「お酒を飲んできたの?」と尋ねた。

「ああ、後で曽田旭が車を運転しに来る」

久保時渡が言い終わると、灰原優歌は車のドアを開け、彼と一緒に後部座席に座って何か質問したそうな様子だった。

彼は無言で微笑み、後部座席のドアを開けて、灰原優歌を先に座らせた。

しばらくして。

久保時渡は灰原優歌の隣に座り、ドアを閉めた。

車内の雰囲気は静かだったが、気まずくはなかった。

灰原優歌はすぐにその雰囲気を破った。「お兄さん、さっきどこに行ってたの?」

彼女は更に尋ねた。「まさか、私がお兄さんの家に住んでることを、うちのお爺さまに話したの?」

「ああ」

久保時渡は面倒くさそうにネクタイを緩め、脇に投げ捨て、ボタンを二つ外して、だらしなく寄りかかった。長い脚を適当に組んで、その姿は上品で色気があった。

「どうして?」

灰原優歌は思わず尋ねた。

その言葉を聞いて、男は初めて薄い瞼を持ち上げ、淡い瞳で彼女をじっと見つめた。

次の瞬間。

男の低く磁性のある笑い声が、セクシーな喉仏の動きと共に響き、愉悦と色気を帯びていた。

「お嬢さんの面倒を見るのは大変だからね。お兄さんは老爺から管理費をもらってきたんだ」

「……」

灰原優歌は瞼を少し動かし、「お爺さまは何て言ってたの?」

彼は投げやりな口調で、「お兄さんの言うことを聞いて、しっかり勉強して、早恋はするなって」

「……わかった」

灰原優歌は言い終わると、思わず久保時渡をもう一度見つめた。

なんとなく、今日の彼の様子がいつもと違う気がした。

普段から彼女をからかうのは好きだったが、今日のように骨の髄まで人を魅了するような、だらしない様子は見せなかった。

何とも言えない軽薄さと慵懒さで、思わず顔を赤らめてしまうほどの色気があった。

まるで上品な悪党のようだった。

……

翌朝。

灰原優歌がまだ目覚めていない時、ドアの外で物音がした。

女性の声のようだった。

その後。

彼女が眉をひそめて反応する間もなく、突然ドアが開いた。