一瞬。
柴田裕香の顔が真っ青になり、唇が小刻みに震えたが、何も言葉が出なかった。
……
久保時渡が戻ってきたとき、灰原優歌が助手席で頭を支えて座っているのが目に入った。
「お兄さん?」
灰原優歌はすぐに久保時渡を見つけ、「お酒を飲んできたの?」と尋ねた。
「ああ、後で曽田旭が車を運転しに来る」
久保時渡が言い終わると、灰原優歌は車のドアを開け、彼と一緒に後部座席に座って何か質問したそうな様子だった。
彼は無言で微笑み、後部座席のドアを開けて、灰原優歌を先に座らせた。
しばらくして。
久保時渡は灰原優歌の隣に座り、ドアを閉めた。
車内の雰囲気は静かだったが、気まずくはなかった。
灰原優歌はすぐにその雰囲気を破った。「お兄さん、さっきどこに行ってたの?」
彼女は更に尋ねた。「まさか、私がお兄さんの家に住んでることを、うちのお爺さまに話したの?」