「なぜそんなことを聞くの?人を連れて行くだけじゃないの?」
灰原優歌は言い終わると、落ち着いてナイフを捨て、その場を去ろうとした。
しかし思いがけないことに。
暗い廊下から出る前に、目の前に端正で気品のある男性が現れた。
二人の視線が交差する。
灰原優歌は「……」
現行犯で捕まってしまった。
灰原優歌にはなぜかわからないが、このバーでこの男性に会うのは良くないような気がした。
久保時渡の瞳は濃い黒色で、感情を読み取ることができなかった。
「渡様……」
森谷之浩は大喜びしたが、まだ口を開く前に。
その後。
男性が軽く笑い、スーツの下の長く禁欲的な脚で、少女の前まで歩み寄った。
彼は関節の浮き出た手をポケットからだらしなく伸ばした。
罰として彼女の額を軽く叩いた。「誰が君にここに来ることを許可したんだ、お嬢さん?」
この光景を見た他の人々は、驚愕した!
渡様はこの女の子と知り合いなのか!??
すぐさま、森谷之浩に従っていた手下たちは、全身が冷や汗で震えた。
もし渡様が、さっき彼らがこの女の子に何をしようとしていたか知ったら……
「私、十九歳です。」
灰原優歌は反射的に反論した。
「大学生?」男性は淡い瞳を落として、ゆっくりと尋ねた。
「……」
この時になって初めて、灰原優歌は自分が留年生であることを実感した。
久保時渡は軽く森谷之浩たちを見渡し、しばらくして、優歌は頭上から声が聞こえた。
低くて磁性のある、耳元がくすぐったくなるような声。
「少し待っていて、お兄さんが用事を済ませるから。」
……
個室の中。
森谷之浩は唾を飲み込み、足が震えながらソファの横に跪いていた。すでに酔いは覚めていた。
彼が直接自分を処罰しに来るのを待っていた。
本当に思いもよらなかった、この女が渡様と何か関係があるなんて!
もし知っていたら、絶対にこんなことはしなかった!!
間もなく。
個室のドアが開き、彼の目の前に強い白い光が差し込んだ。
その後。
目に入ったのは、長身でシャツとスーツパンツの気品ある男性が、ゆっくりと彼の前まで歩いてきた。
久保時渡は余裕を持って、彼の前に跪き、恐怖に満ちた表情の森谷之浩を見つめた。
「渡様、本当に知りませんでした、あの方があなたの人だとは!