「なぜそんなことを聞くの?人を連れて行くだけじゃないの?」
灰原優歌は言い終わると、落ち着いてナイフを捨て、その場を去ろうとした。
しかし思いがけないことに。
暗い廊下から出る前に、目の前に端正で気品のある男性が現れた。
二人の視線が交差する。
灰原優歌は「……」
現行犯で捕まってしまった。
灰原優歌にはなぜかわからないが、このバーでこの男性に会うのは良くないような気がした。
久保時渡の瞳は濃い黒色で、感情を読み取ることができなかった。
「渡様……」
森谷之浩は大喜びしたが、まだ口を開く前に。
その後。
男性が軽く笑い、スーツの下の長く禁欲的な脚で、少女の前まで歩み寄った。
彼は関節の浮き出た手をポケットからだらしなく伸ばした。
罰として彼女の額を軽く叩いた。「誰が君にここに来ることを許可したんだ、お嬢さん?」