「渡様……」
柴田裕也は一瞬固まった。久保時渡が来るとは思わなかった。
なぜ来たのだろう?
その瞬間。
全員の視線が彼に注がれ、みな呆然としていた。
その男の端正で優雅な容姿、完璧に仕立てられたスーツ姿、そして何とも言えない威圧感を放つ冷ややかな眼差しは、生まれながらの威厳を漂わせていた。
「こっちに来なさい」
久保時渡の低く心地よい声が、無造作に響いた。
そして、全員が困惑している中、灰原優歌は前に出て、目の前の気品のある冷たい男性の手を取った。
彼女は目を細めて、「お兄さんはどうしてここに?」
その言葉が落ちた。
突然、柴田裕也は全身が凍りついた。優歌が長い間、次兄を呼んでいなかったことに気づいた……
久保時渡は薄い瞼を持ち上げ、淡々とした目線を彼女に向けた。彼は怠惰そうに手を伸ばし、懲らしめるように彼女の頬をつねった。