第174章 私の娘が不当な扱いを受けるのは見過ごせない

「渡様……」

柴田裕也は一瞬固まった。久保時渡が来るとは思わなかった。

なぜ来たのだろう?

その瞬間。

全員の視線が彼に注がれ、みな呆然としていた。

その男の端正で優雅な容姿、完璧に仕立てられたスーツ姿、そして何とも言えない威圧感を放つ冷ややかな眼差しは、生まれながらの威厳を漂わせていた。

「こっちに来なさい」

久保時渡の低く心地よい声が、無造作に響いた。

そして、全員が困惑している中、灰原優歌は前に出て、目の前の気品のある冷たい男性の手を取った。

彼女は目を細めて、「お兄さんはどうしてここに?」

その言葉が落ちた。

突然、柴田裕也は全身が凍りついた。優歌が長い間、次兄を呼んでいなかったことに気づいた……

久保時渡は薄い瞼を持ち上げ、淡々とした目線を彼女に向けた。彼は怠惰そうに手を伸ばし、懲らしめるように彼女の頬をつねった。

「また何か騒ぎを起こしたのか?」

男の声は慵懶で無関心そうだったが、どこか甘やかしと気ままさが感じられた。

「してません」

灰原優歌が言い終わると、生活指導主任は慎重に「先生も柴田家の方ですか?」と尋ねた。

「私は久保だ」

久保時渡はゆっくりとした口調で、人を寄せ付けない冷淡な様子で答えたが、それがかえって周りの緊張感を高めた。

しかし、その一方で。

彼は隣の少女が俯いて、彼の長く美しい指を弄ぶのを許していた。

あまりにも突飛な甘やかしぶりに、職員室の空気までが甘くなったように感じられた。

これが本当に保護者なのか??!

知らない人が見たら、生徒の恋人だと思うだろう!!

そしてこの時、土屋遥も遠くにいるその男を見つめ、胸に煩わしさを感じていた。

彼はこの男に一度会ったことがある。

だからこそ、彼はこの男との差を痛感していた。

「久保さん……」

生活指導主任は目の前の人物の身分は分からなかったが、先ほどの柴田裕也の久保時渡に対する態度から、裕福か身分の高い人物であることは明らかだった。

彼は深く息を吸い、再び笑顔で言った。「この件は、主に灰原優歌さんが……」

その後。

生活指導主任が言い終わらないうちに、俯いていた少女が突然唇の端を上げた。

次の瞬間。

灰原優歌は体を回転させ、男性の腰の横をすり抜けて、彼の背後に隠れた。