少女にはまだ良心があるようだ。
久保時渡はペンを置き、灰原優歌を見つめた。
「バーは楽しかったのか?」久保時渡は軽い調子で尋ねた。
「……そうでもないです」
灰原優歌は夜食を食べている途中で、その質問を聞いて、むせそうになった。
久保時渡はその様子を見て、視線を戻し、無言で笑みを浮かべた。
二十分後。
二人は静かに夜食を食べ終えた。しばらくすると、ドアをノックする音が聞こえた。
苗木おばさんがドアを開け、意味深な笑みを浮かべながら二人を見渡した。「旦那様、お嬢様、食器をお下げしますね」
「ああ」
久保時渡は気にも留めずに返事をし、苗木おばさんが去った後、まだ帰る気配のない灰原優歌に視線を向けた。
「お兄様、怒らないで。私、悪かったです」
灰原優歌は目の前の気品のある美しい男性が心を動かされた様子がないのを見て、さらに付け加えた。「これからは、ちゃんと勉強します」