第160章 お兄ちゃんの優歌は、何でも叶えてあげたい

彼女は久保時渡の袖を離し、視線を逸らしながら「喧嘩もダメなの?」と尋ねた。

なぜか、灰原優歌は久保時渡が自分の暗闇恐怖症に気付いたと感じていた。

灰原優歌が考える間もなく、隣の男性が再び手を伸ばし、悪戯っぽく彼女の髪を乱した。

「いいよ。でも、お兄さんは心配するよ」

髪の毛がもじゃもじゃになった灰原優歌は「……」

「何があったのか、僕の可愛い子がこんなに怒っているなんて」

男性の低くて心地よい声が、セクシーな喉仏の動きと共に漏れ出た。

久保時渡には分かっていた。灰原優歌が柴田おじい様のことを大切に思っていることを。彼女が夜中に出てきて密かに喧嘩をしようとする相手は、明らかに彼女を不快にさせた人物だった。

「私の大切な人に手を出したの」

灰原優歌は目を上げ、にこやかに久保時渡を見つめて「お兄さんみたいな人よ」と言った。