「柴田家のこと?」
灰原優歌の目には波風がなく、その声色からも何も読み取れなかった。
「お兄さんは、どうやらずっとコンピューター分野の専門家との協力を探しているようですね。私たちの研究所以外にも、他の計算研究所や専門プラットフォームにも連絡を取っているようです」
その言葉を聞いて、灰原優歌の目に思考の色が過ぎった。
彼女は兄の柴田陸信のことをよく知らなかった。しかし、柴田氏が破産した理由は、会社のデータ漏洩と無関係ではないことを覚えていた。
会社のデータ漏洩は、内部の人間が買収された可能性もあれば、技術者による悪意のある操作である可能性もある。
もし後者だとすれば、それは以前柴田おじい様を傷つけた例のアンチと同じ性質のものだ。
「どんな条件を提示されたの?」灰原優歌が尋ねた。
マーカスは笑みを浮かべた。「金持ちがどんな条件を出すか、みんな分かっていますよ。要は報酬の高低の問題です。
でも優歌、あれはあなたのお兄さんです。もしあなたの顔を立てるためなら、もちろん問題ありません」
以前なら、マーカスはきっとこっそり引き受けて、それから灰原優歌に話して好感度を稼ごうとしただろう。
しかし最近、金井雅守という老人から柴田家と灰原優歌の件を聞いて、柴田家への好感も失せていた。
どういう了見だ?
柴田家を天まで持ち上げられる娘がいるのに見向きもせず、あの柴田裕香を宝物扱いするなんて。
この一家は知能を美貌と交換したのか??
案の定。
しばらくして、灰原優歌は無関心そうに指先でテーブルを叩きながら、「必要ないわ」と言った。
原作では、柴田家の破産に関する事件は、柴田家の長男柴田陸信を狂気的に追いかけていた女性相続人の仕業だった。
その後、その女性相続人は柴田裕香の親友となった。
だから。
今のところ、この件には手を出せない。まず敵を引き出す必要がある。
柴田家と関わりたくないとは思っているものの、原主の体を受け継いだ以上、原主の宿願を叶えてあげなければならない。
柴田家の危機を解決することも含めて。
「優歌、あなた...本当に彼らを憎んでいるの?」マーカスは少し躊躇してから尋ねた。
「マーカス、この件は私には解決できないと思っているの?」
灰原優歌は穏やかな笑みを浮かべた。
その言葉を聞いて、マーカスは急に悟った!