しかし。
柴田裕香をより不安にさせたのは、この業界の中で彼女だけが、吉田麻奈未が実は吉田家のお嬢様だということを知っているようだということだった。
もし吉田麻奈未の身分が明らかになれば、きっと彼女にも少なからず影響があるだろう。
「姉さん、吉田麻奈未って知ってる?」柴田裕香は平然と尋ねた。
「知ってるわよ。今年、どこからか作曲家を見つけてきて、一曲で大ヒットを飛ばしたわ。今や人気は一線級を超えてるわね。」
彼らもその作曲家に目をつけていなかったわけではない。
ただし、全く情報が掴めなかった。噂によると、吉田麻奈未の知り合いだという。
「その作曲家、姉さん、引き抜けそう?」
柴田裕香は笑って言った。「彼女には好きな値段を出してもらって、私に一曲書いてほしいの。」
……