そのとき。
皆それぞれ思うところがあった。
ほとんどの人が、灰原優歌が突然翻意したのは、勝てないと思ったから、いいところで引き下がったのだと考えていた。
森谷美貴の運が悪かった。相手の兄が教えた問題を選んでしまったのだから。
「いつも拾い物ばかりできるわけじゃないでしょう」と誰かが小声で話し合っていた。
「そうね、この大会には高校2年生と3年生も参加するって。1組の柴田裕香も申し込んだし、3年1組の内田和弘も出るんだって」
「マジかよ……灰原優歌が最下位になったら、かなり恥ずかしいことになるね。内田和弘と柴田裕香は遥ちゃんラブラブなのに、二人とも彼女を圧倒することになるし……」
「本当にそうだよね」
……
これらの言葉を聞いて、土屋遥は眉をひそめ、もう一度灰原優歌を見た。
「隣の席の人、この大会……出なくてもいいんだよ」
灰原優歌はウェットティッシュを取り出し、ゆっくりと手を拭きながら、ふわっと笑って言った。「行くわ、もちろん」
授業が終わった後。
森谷美貴は自分が看板を持って走る恥ずかしい姿を誰かに撮られるのを恐れていたが、結局本当に叫びながら10周走った。
周りには何人かの男子生徒が集まり、数を数えて監視していた。
森谷美貴は走り終わると、我慢できずに泣き出してしまい、先生はいじめられたのかと思ってしまった。
しかし森谷美貴はそれを聞いて、友達と賭けに負けただけで、自分の意思だったと歯を食いしばって言うしかなかった。
職員室で。
男性教師は思わず尋ねた。「君のクラスの森谷美貴はどうしたんだ?授業が終わるとすぐに運動場で10周も走って、しかも……あんな変な言葉を言いながら」
「友達と賭けに負けたそうです」
越智哲彰は眉を上げた。
「……君も現場にいたのか?」
男性教師は言いかけて止めた。「こういうことは、我々教師が現場にいる場合は許されないはずだ」
「学校で起こってはいけないことが、結局起きているじゃないですか」と越智哲彰は淡々と言った。
それを聞いて、男性教師は黙り込んだ。
彼は知っていた。以前越智哲彰が担任していたクラスで、いじめが原因で自殺した女子生徒がいたことを。
だから、越智哲彰はこういった集団的な孤立やいじめの行為を常に嫌悪していた。