第324章 この研究所で、Y.G.だけが私を助けられるのか?

「これは、ぼーっとしているの?」土屋遥は彼女を見つめる目に、言葉では言い表せない何かが宿っていた。

この一週間、ピアノの音に苦しめられた彼は、心臓発作を起こしそうだった。

灰原優歌は我に返り、土屋遥を見た後、演奏を終えた佐藤知行を見た。

「灰原様、私の演奏はよかったでしょう?」

佐藤知行は何故か、自分のピアノの腕前に自信満々だった。

灰原優歌は頷き、だるそうな口調で、「うん、聴いているうちに、遺書の書き方が分かってきたわ」

佐藤知行:「……」

傍にいた土屋遥は思わず噴き出して笑った。

さすが灰原様、彼女を呼んで正解だった。

この佐藤凡々は最近ピアノの練習に取り憑かれていて、彼を引っ張り込んで演奏を聴かせ、しかも自己満足に浸っていた。

誰か厳しい人が来なければ、自分は天才だと思い込んでいたかもしれない。

「違います、私の姉は私のピアノが大好きなんです」佐藤知行は眉をひそめた。

普段なら灰原優歌はもう少し冗談を言ったかもしれないが、今は気分が乗らなかった。

その後。

佐藤知行が灰原優歌に粘り強く質問しようとする前に、灰原優歌の携帯が鳴り出した。

「電話に出てくる」

灰原優歌は外に向かいながら、着信表示をちらりと見た。

見知らぬ番号だった。

電話に出ると、灰原優歌が声を発する前に、焦った声が聞こえてきた。「灰原さん?私です、林副社長です。

林院長の……スキャンダルが、誰かによってトップニュースに流出されました。私たちは抑えようとしていますが、閲覧数が多すぎて、抑えきれない状況です」

「何ですって?」

灰原優歌は眉をひそめ、瞳の光も冷たくなった。

「あの……ご自身で確認されては?」林副社長は深く息を吸い、おそるおそる尋ねた。

彼には林院長のスキャンダルについて口に出す勇気がなかった。

真偽は不明だが、ネット上では多くの人々が急速に拡散し始めていた。結局のところ、灰原優歌の話題性によって、林院長の注目度も大きく上がっていたのだ。

「分かりました、ありがとう」

灰原優歌の目の奥の温度が徐々に冷えていった。

一方、林副社長はこの感謝の言葉を聞いて、なぜか恐縮してしまった。

そして。

灰原優歌が電話を切ると、金井雅守から送られてきたメッセージに目を向けた。