「これは、ぼーっとしているの?」土屋遥は彼女を見つめる目に、言葉では言い表せない何かが宿っていた。
この一週間、ピアノの音に苦しめられた彼は、心臓発作を起こしそうだった。
灰原優歌は我に返り、土屋遥を見た後、演奏を終えた佐藤知行を見た。
「灰原様、私の演奏はよかったでしょう?」
佐藤知行は何故か、自分のピアノの腕前に自信満々だった。
灰原優歌は頷き、だるそうな口調で、「うん、聴いているうちに、遺書の書き方が分かってきたわ」
佐藤知行:「……」
傍にいた土屋遥は思わず噴き出して笑った。
さすが灰原様、彼女を呼んで正解だった。
この佐藤凡々は最近ピアノの練習に取り憑かれていて、彼を引っ張り込んで演奏を聴かせ、しかも自己満足に浸っていた。
誰か厳しい人が来なければ、自分は天才だと思い込んでいたかもしれない。