柴田裕香は物理の教科書を閉じると、彼女に微笑みかけて言った。「聞いたわ、この前おじいちゃんに会いに行ったって。私に時間ができたら、実家に連れて行って数日過ごしましょう」
三浦雅子は、柴田裕香がまるで彼女が単に外出しただけで、しばらくしたら柴田家に戻ってくるかのように話すとは思わなかった。
「まだ戻れるの?」
三浦雅子は表情こそ冷静だったが、実際には少し緊張していた。
柴田裕香と比べると、実は彼女は灰原優歌の方が柴田家のお嬢様であることを望んでいた。
結局のところ、灰原優歌は彼女にとって何の競争相手にもならなかった。でも柴田裕香は違う、柴田家がなくても、ニレイ十八令嬢舞踏会の招待状を受け取ることができるのだから……
「ある人は、その地位に相応しくないわ」と柴田裕香は言った。
……
昼時。
千田郁夫は我慢できずに灰原優歌に電話をかけた。
電話が繋がると、すぐに感謝の意を表した。
「灰原さん、今回は本当にありがとうございます。法医が死体の頭部を検査した際、微細な傷を発見しました」
彼は唇を噛んで、「後になって分かったのですが、その部分の皮膚は移植されたものでした。中には使用不能になったチップが埋め込まれていました」
当時、彼らは遺体が尊厳を保ったまま送られることを望んでいたため、詳細な検査は行わなかった。
しかし思いもよらず、そのために重大な発見を見逃してしまっていた。
「三人目は、戻ってきましたか?」
「戻ってきましたが、長期間不在だったので、必ず気付かれるでしょう」千田郁夫は眉をひそめた。
「まずはチップをA.M.計算研究所に送った方がいいでしょう。三人目の潜入捜査官については、チップを先に除去することをお勧めします」
千田郁夫も迷っていた。実際、このチップは潜入捜査官の安全を保障するものでもあり、異常が発見された場合はいつでも撤収命令を出すことができる。
「分かりました」
千田郁夫は拳を握りしめ、思わず尋ねた。「そのチップ、Y.G.は見てくれますか?」
「金井様が見てくれるはずです」
そう言うと、灰原優歌は電話を切った。
その時。
光輝は完全に呆然としていた。まさか本当に潜入捜査官が'監視'されていたとは。
このチップは、ほぼ間違いなく犯人たちが彼らを監視するために使用していたものだ!!