第343話 一方は殴りたがり、二人は殴られたがり

計算研究所に入ると。

金井雅守は千田郁夫を熱心に引き止めて膝を交えて話し込み、目配せで灰原優歌に早く行くように促した。

千田郁夫が何も言う前に振り返ると、灰原優歌の姿が消えていた。

「所長、灰原さんはどこに?」

「私の花に水をやりに行ったんじゃないかな。今どきの若者は本当に忍耐強くて、お年寄りの手助けを好むからね」

金井雅守は声に力を込めて朗らかに笑った。

千田郁夫はまぶたを痙攣させながらも、それ以上は聞かなかった。

彼女がわざわざA.M.計算研究所に来たのは、花に水をやるためだったのか?

その時。

灰原優歌は確かに各国の蕾たちに水を注いでいた。

ただし。

水を注がれている蕾たちは震え始めていた。

今日の講師がY.G.だと知っていた人々は、最初は嬉しくて興奮し、意気揚々と会議室に入っていった。

しかし、誰かがティッキーに何気なく、Y.G.先生の授業では何を準備すべきかと尋ねると、ティッキーは「叱られる覚悟」と答えた。

皆は突然、この件が単純ではないことに気付いた……

「内容が簡単すぎると感じる方は、会議室を出て行って構いません。私語は控えめにお願いします」灰原優歌は目に笑みが届かない表情で言った。

皆は複雑な心境で「……」

新人エリートの実習生たちは、なぜティッキーとジェースミンが研究所に入った当初は傲慢で尊大だったのに、今では保温マグを持って窓際で物思いに耽る姿になったのかを、突然理解した。

今。

会場全体を見渡すと、まるでティッキーとジェースミンだけが灰原優歌のペースについていけているようだった。

他の人々は、もう冒頭で降参していた。

先ほどの議論の声も、誰かがこっそりティッキーにY.G.先生が一体何を講義しているのかを尋ねていたものだった。

息詰まるような一講義が終わった。

ジェースミンとティッキーの二人は、熱いお茶を一気に飲み、さらに高麗人参を一片含んで元気を補給し、ようやく体の力が抜けた。

この手慣れた統一された動作を見て、皆は体を震わせた「……」

さすが研究所の一番手と二番手。

なんて忍耐力だ!

もし彼らがY.G.の授業を何度も受けたら、天国に昇れそうだった。

そして、この講義を機に、研究所の実習生たちは灰原優歌にトラウマを抱くようになった。

「ティッキー、普段の授業もこんな感じなの?」