計算研究所に入ると。
金井雅守は千田郁夫を熱心に引き止めて膝を交えて話し込み、目配せで灰原優歌に早く行くように促した。
千田郁夫が何も言う前に振り返ると、灰原優歌の姿が消えていた。
「所長、灰原さんはどこに?」
「私の花に水をやりに行ったんじゃないかな。今どきの若者は本当に忍耐強くて、お年寄りの手助けを好むからね」
金井雅守は声に力を込めて朗らかに笑った。
千田郁夫はまぶたを痙攣させながらも、それ以上は聞かなかった。
彼女がわざわざA.M.計算研究所に来たのは、花に水をやるためだったのか?
その時。
灰原優歌は確かに各国の蕾たちに水を注いでいた。
ただし。
水を注がれている蕾たちは震え始めていた。
今日の講師がY.G.だと知っていた人々は、最初は嬉しくて興奮し、意気揚々と会議室に入っていった。