灰原優歌の眉が少し動き、指先で本の表紙を撫でた。
大衆の目に触れるこのような事には、彼女は興味がなかった。
突然。
携帯が鳴り、灰原優歌はすぐに立ち上がった。「おじい様、ゆっくり休んでください。私は用事があるので先に帰ります。」
灰原優歌の断りを見て、柴田おじい様は彼女が去っていくのをただ見送るしかなかった。
……
灰原優歌が外に出ると、電話をかけてきたのは金井雅守だった。
電話で、金井雅守は多くを語らず、ただ研究所に来るように言っただけだった。
A.M.計算研究所。
灰原優歌は入るなり研究室に向かい、金井雅守の表情が重いのを見た。
「どうしたんですか?」
灰原優歌も初めて、金井雅守がこれほど急いで彼女を呼び出すのを見た。
「このチップに、問題がある。」
金井雅守は封印されたチップに目を留め、表情も良くなかった。「さっき、あなた宛ての物が届いた。」
「私宛て?」
灰原優歌は横目で段ボール箱を見て、受取人が確かに彼女であることを確認した。
【受取人:Y.G.】
ただし、この郵便物は明らかに正規の宅配会社からのものではなかった。
差出人がないからだ。
灰原優歌の瞳が揺れ、少し笑って、箱を開けようとした。
「優歌、触らない方がいいんじゃないか?」
金井雅守は灰原優歌を呼び止め、中に変なものが入っているのではないかと心配した。
「大丈夫です。」
灰原優歌はハサミを取り、ゆっくりと箱を開けた。
箱を開けた瞬間、腐臭が漂ってきた。
中には切り取られた舌と、血まみれの眼球が一対入っていた。
「優歌!」
金井雅守は顔色を変え、すぐにもこの恐ろしいものを投げ捨てようとした。
「これは千田郁夫に処理してもらいましょう。」
灰原優歌の上がっていた眉尻が少し下がり、感情の起伏もなく、テープを見つけると再びそれを封をした。
誰も、これが闇に潜んで命を落とした人々のものかどうかわからない。
しかし今はっきりしているのは。
彼らは廃棄されていないチップを通じて、千田郁夫たちがA.M.計算研究所に助けを求めていることを知った。
そして【Y.G.】に対して示威と脅迫をしているのだ。
ただし、彼らもやりすぎることはできず、A.M.計算研究所と正面から対決するのは避けたがっている。