傍らにいた柴田陸信と柴田裕也は、柴田裕香の目つきが冷たくなるのを見ていた。
柴田の父も呆然として、「何だって?」
雲大とニレイ大学は両方とも一流校だ。この二校が……優歌を欲しがっているだって!?
柴田の父だけでなく、傍らの雲田翁も驚きのあまり呆然としていた。
「レイ大は……入学試験を受けて合格しないとオファーがもらえないはずでは?」雲田翁は以前知り合いの友人の孫娘が、二年かけてようやくニレイ大学に合格したことを覚えていた。
そんな大学が、灰原優歌に自らオファーを出すなんて!?
「ああ、優歌の担任の話では、優歌がレイ大の教授の出題ミスを発見し、しかも全体で唯一解答できた生徒だったからだそうだ。
だから、レイ大の教授がすぐにオファーを約束したんだ。でも優歌は数学専攻が好きじゃないから断ったんだ。」
柴田浪は不精げに銀白の短髪を掻きながら、誇らしげに得意気な様子で言った。
柴田裕也はすぐに言葉を継いだ。冷ややかな口調で、「だから、一体誰が悪意を持って事を荒立てているんだ?」
柴田裕香は全身が冷たくなり、柴田裕也の目を見る勇気がなかった。
柴田の父は言葉に詰まった。まさか自分が灰原優歌を冤罪に陥れていたとは。
そして。
柴田の父がこの件についてよく考える間もなく、柴田裕香が突然立ち上がった。
彼女は唇を噛みながら、灰原優歌の前に歩み寄り、お茶を差し出し、へりくだって謝罪する様子を見せた。
「優歌、私が悪かったの。あの時何気なく言っただけで、お父さんにちゃんと説明しなかったの。お父さんを責めないでね。謝らせて。ごめんなさい。許してくれない?」
灰原優歌は物憂げに目を上げ、無関心そうに彼女を見た。
一方、柴田裕香は心の中で確信していた。これだけ多くの人の前で、灰原優歌は少なくとも許すふりくらいはするはずだと。
「優歌、私は意図的にあなたを攻撃しようとしたわけじゃないの。本当に許してくれないの?」
柴田裕香は目に涙を浮かべ、軽く唇を噛んだ。
傍らの雲田卓美はもう見ていられなくなり、灰原優歌が意図的に柴田裕香を苦しめているように感じた。
その時。
灰原優歌は柴田裕香が差し出したお茶を手に取った。