「おとなしいね」
彼女は男の低くて磁性のある笑い声を聞いた。それは喜びを帯びていた。
「……」
灰原優歌は久保時渡の手を振り払ったが、ある予感がした。
自分の頬は、きっとこの男に揉まれて赤くなっているはずだ。
その時。
灰原優歌は周りの露骨な視線を感じ、もう薄田京香をからかう気も失せていた。
彼女は唇を噛んで、久保時渡を一瞥してから、一人で横の階段へと向かった。
「優歌、あの階段は最上階には通じていないよ」久保時渡は小娘が怒り出したのを見て、思わず無言で笑みを浮かべた。
「三階に行くの」
さっきヴィックから電話があって、三階にいると言っていた。
灰原優歌が振り返りもせずに行くのを見て、久保時渡の視線は容赦なく彼女の脚とスカートの境目に落ちた。
その肌は眩しいほど白く、見ていると、今にも春の光が漏れそうな様子だった。