「水を一杯注いでくれませんか?」
灰原優歌はそれを聞いて、秋木謙を見つめ、最後には秋木謙にも水を注いでやった。
「そんなに私のことが嫌いなの?」
秋木謙が突然尋ねた。
「嫌い?」灰原優歌は目を上げて彼を見つめ、問い返した。
「君は、私に近づくのを嫌がっているようだけど。私の足のせい?」
男の声は低く潤んでいたが、水の入ったコップを握る手は少し白くなっていた。
「私は見知らぬ人に対して我慢強くないの。あなたもそうでしょう?」
灰原優歌は気にせず軽く笑い、別の場所に座った。
彼女は腕時計を見て、あと十分経てば任務を終えて帰れると待っていた。
その時、秋木謙も特に何も言い出さなかった。
空気が少し凍りついた。
「君のおじいさんは良い人だね」
灰原優歌は面倒くさそうに眉を上げた。「年を取るとみんなそうなるものよ」
「君も年を取ったらそうなる?」
「それはないわね」
「……」
その瞬間、秋木謙は南崎希が七百円を押し付けられた気持ちがよく分かった。
同じように嫌われているのだから。
その後。
秋木謙が無理な会話を諦めかけた時。
突然、灰原優歌が尋ねた。「あなたの足、怪我してどのくらい経つの?」
「数年になるね」
灰原優歌は彼を一瞥したが、それ以上は何も言わなかった。
「何か言いたいことはない?」
灰原優歌は唇を歪めた。「私が言いたいことは、きっと誰かがすでに言ったでしょうね」
秋木謙は気づいた。この女の子は確かに冷淡だ。余計な世話を焼くのを好まず、余計なことも一切しない。
しかし彼には分かった。この女の子の冷淡さは、物事を見通しすぎているからのようだ。だがこの年齢で、何を見てきたからこんな性格になったのだろう?
彼女のおじいさんは情熱的な人なのに。
「義足を使って、リハビリをしろって言いたいの?」秋木謙は笑いながら尋ねた。
「生きていれば選択に直面するものよ。なのに、なぜ最悪の選択をするの?」灰原優歌はフルーツバスケットからみかんを取り、ゆっくりと皮を剥き始めた。
「でも外に出ても、必ずしも良い生活が送れるとは限らない」秋木謙は目を暗くし、拳を握りしめた。
かつては天才と呼ばれた人間が、今は人々の陰口の的になることなど、どうして望むだろうか?